2002 Fiscal Year Annual Research Report
カフカとフロイト-カフカの人格と作品の分析に欲動論と第二局所論を導入する試み
Project/Area Number |
13610627
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
河中 正彦 山口大学, 工学部, 教授 (20035158)
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Keywords | メランコリー / ヒステリー / 精神分析 / 欲動の昇華 / 自我の分裂 / 専制的超自我 / 自虐 / 自己観察 |
Research Abstract |
本年度は4年計画の研究の2年目であるから、計画通り初期カフカの研究に費やした。対外的に見える成果としては、日本独文学会題56回総会・春季発表会(2002年6月2日、獨協大学)において「カフカにおける<欲動の運命>-『判決』を範例として」を発表した。現在『判決』論と『火夫』論を執筆中であり、どちらも完成の8割ぐらいまできている。「判決』論は、「ロシアの友人」をエス、ゲオルクを自我、ゲオルクの父を超自我として把握している。父がゲオルクに死刑の判決を下す『判決』は、フロイトが「意識を独占した非常に強い超自我が、自我に向かって無慈悲に激怒し、あらんかぎりのサディズムを発揮する」と特徴づけたメランコリーの文学的な形象化と捉えている。また父が「俺は当地の彼(ロシアの友人)の代理人だ」というが、フロイトは「超自我は、内的世界、エスの代理人として自我に対立する」と述べている。カフカは『判決』(1912)で、フロイトの「自我とエス」(1923)を10年以上先取りしている。 『火夫』論は、船底にいる火夫をエス、カール・ロスマンを自我、船長とカールの叔父を超自我と捉える。「火夫』が「明るい」のは、ここではエスと自我が手を組んで、超自我と闘うからである。火夫の形象は、ホーフマンスタールが、船底から一息入れに甲板に出てきた火夫を「これこそ芸術家の形象だ」で述べたあるエッセイからカフカは影響を受けている。
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