2001 Fiscal Year Annual Research Report
トーマス・マン『魔の山』の錬金術的構造-ユングの錬金術心理学の観点からの考察
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13610630
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
池田 紘一 九州大学, 大学院・人文科学研究院, 教授 (10036973)
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Keywords | トーマス・マン / 『魔の山』 / C.G.ユング / 錬金術 / 『ファウスト』 |
Research Abstract |
1)トーマス・マンの文体及び作品構成の原理は、偶然の連鎖のなかから必然を如何にして紡ぎ出すかにあると考えられる。それは別言すれば、日常的現実の表面的・偶然的連鎖のなかに人間の内なる「自然」が「災厄」Heimsuchungとして噴出してくる様を如何にして描くかということである。この手法は「ヴェニスに死す』において確立されたが、『魔の山』においてはそれが、レトルトのなかに密封された諸元素(人物たち及びその思想・感情・性格の蜿々と展げられる分離・融合(錬金術的醸成)過程の細密な描写にまで純化されている。このプロセスを、「白紙」tabula rasa、すなわちプリマ・マテリアとしてのハンス・カストルプの内面で起こる心理的化学反応を中心に、全篇にわたって詳細に分析した。 2)「魔の山』は近代ヨーロッパの諸精神の「在庫調べ」(マンのことば)と呼べるほど多彩な人物と思想の離合集散の物語である。しかしその核をなすテーマは、精神と自然(肉体)の葛藤とそのエロス的関係である。これは優れて錬金術的テーマであり、またユング深層心理学の重要課題である。むろん、マンもユングも、ゲーテ-ショーペンハウアー-ニーチェの近代的精神への懐疑の延長線上にあるが、その萌芽の重要な一つは、16世紀を頂点とする錬金術(ヘルメス哲学及び錬金術師の魂の葛藤)と見ることができる。『魔の山』の主題とユング錬金術心理学との関連を、テクストに即して具体的にさぐった。特に、錬金術的ドラマとてしての「ファウスト』との類似点を明らかにすることに努めた。
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Research Products
(2 results)