2002 Fiscal Year Annual Research Report
ガリレオ・ガリレイの言語戦略の研究-2つの対話作品を中心として-
Project/Area Number |
13610646
|
Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
小林 満 京都産業大学, 外国語学部, 助教授 (50242996)
|
Keywords | ガリレオ / 対話 |
Research Abstract |
ガリレオの主要著作『プトレマイオスとコペルニクスの世界の二大体系についての対話』(通称『天文対話』)の対話形式がもっている最大の利点は、さまざまなタイプの言説をひとつの作品のなかに自然な形で持ち込むことにより、アリストテレス学派的論述、数学的論証、対話者たちによる実験、たとえ話等々、さまざまなジャンルの多様な文体が有機的につらなって議論を説得的に導き、「演劇」作品であるかのようにいきいきとした三者のやりとりが読者を最先端の学問領域のなかに容易に取り込んでいく点にある。 また、コペルニクスの学説を堂々と掲げることが非常に危険な状況のなかにあって、アリストテス・プトレマイオスの学説を代表するシンプリーチョ、コペルニクスの学説を代表するサルヴィアーティ、判定者としてのサグレードの3人を対話者として登場させることで、ガリレオは、それぞれがあくまでも「仮説」を提示してどちらが説得的であるかを最終的には読者に判断させる形をとった。 この意味で3人の対話者はそれぞれの役割を担った「役者」の機能を果たしており、その結果、科学的対話作品が読者を楽しませる「演劇」作品になっているのである。もちろん、シンプリーチョが嘲笑される対象であるのは明らかだが、サルヴィアーティ自身の台詞のなかには、「私たちの議論のなかで私はコペルニクス派の人物として振る舞っており、あたかもその仮面役者のようにその人の真似をしているのです」などと「演劇」を意識した発言が出てくる。そして、それは登場人物である仮想のサルヴィアーティさえ実際には自分がコペルニクス派だとは認めているわけではない、あくまでもその「ふり」をしているだけだという予防線にもなる。非常に周到な作品構造になっているのである。 この「演劇」的性格は、ガリレオの『対話』を魅力的にする大きな要素であり、かつ教会に対する逃げの一手でもあったのである。
|