2002 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13610683
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
佐藤 宗子 千葉大学, 教育学部, 教授 (40162490)
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Keywords | 児童文学 / 翻訳 / 再話 / ジェンダー / 比較文学 |
Research Abstract |
1 いわゆる「名作」の代表である『小公子』に関して、加藤武雄が大正期の童話雑誌と昭和初期の婦人雑誌に掲載した再話作品を比較検討した。その結果、読者対象が「子ども」か「女性」かによって、原作との懸隔や物語の構造そのものに明らかな差違がみられることが判明した。その一方、男性作家・再話者の「子ども」「女性」に対する教化のまなざしの重なりも指摘できる。今後、作品成立と対象読者意識の一回性の関係をより明確に把握していく一歩となろう。 2(1)大阪国際児童文学館などでの資料収集では、ディケンズの『骨董屋』に由来する<少女ネル>関連の翻訳・再話作品の流れに着目した。もともと英語圏でもダイジェスト等の普及があり一般にセンチメンタルな作品と捉えられがちだが、たとえば明治末期には羽仁もと子が主人公の造型を「勇気」という観点からみて再話している。後の多くの男性翻訳者・再話者が清純さや哀憐に焦点を当てる傾向がみられることと対照的である。(2)ディケンズの<ネル>を念頭につくられたドストエフスキーの<ネル>(『虐げられた人々』中の人物)も、ほとんど類似の訳題で第二次大戦後に紹介されており、両者を関連させて検討していくと、各言語で縦割りに考えられがちな翻訳・再話が抱える問題に、新たな切りこみをすることが可能となろう。 3 女性の翻訳家への注目という点では、上記の例のほか、カニグズバーグ作品の訳出の問題もある。すなわち、同性であっても各々の訳者によって、たとえば男性登場人物の会話の文体等にかなり大きな違いがみられることが瞥見される。性別以外の翻訳・再話に関わる要因を一方で整理しながら、他方、作者・訳者・登場人物の性別がどのように組み合わさる中でジェンダー意識が問題として浮上するか、引き続き検討していきたい。
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Research Products
(2 results)