2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13610683
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
佐藤 宗子 千葉大学, 教育学部, 教授 (40162490)
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Keywords | 児童文学 / 翻訳 / 再話 / ジェンダー / 比較文学 |
Research Abstract |
1(1)ディケンズ「骨董屋』に基づく「ネル」再話群について、マンガや絵物語になったものも含めて、前年度からの検討を取りまとめた。そこではとくに、羽仁もと子、松本恵子、池田宣政の三人の再話に注目し、「勇気」や「働く意欲」など、前向きな「けなげ」の側面が再話者によって強化される場合もあること、それにもかかわらず、別の面である「いたましさ」などが結果的に効力を増してしまうことなどの知見を得た。 (2)「ネル」再話は、1950年代から60年代にかけての時期に、ドストエフスキー『虐げられた人々』に基づく「ネリー」を主人公とする再話群と、いわゆる名作全集等の中では混交されがちである実態が明確になった。このことは、「少女」を主人公とする作品群、再話群の類似化といった問題を考える端緒ともなろう。 2 現代アメリカを代表する児童文学作家の一人、カニグズバーグの作品に登場する「少年」「少女」の造型について、検討を加えた。初期の作品群においては、むしろ日本の多くの事例と同様、「中世」乃至「無性」として描かれ、それによって普遍的な思春期の問題を浮かび上がらせる傾向が見られる。しかし、最近の『13歳の沈黙』などでは、セクシュアリティの面に踏み込んだ問題追求の姿勢が見られる点が興味深い。 3 児童文学に移入された「アラビアン・ナイト」関連作品の検討をする機会を得た。とくに「アリ・ババと40人の盗賊」に着目した結果、登場するモルジャーナの描写等で、通常忌避されがちな性に関わる表現が、年少読者を対象とする場合も挿絵で許容されている例がいくつも見られた。これは、「西洋」に対するものとは違う、日本における「東洋」観として、今後より深く追究しうる課題である。 4 上記の結果を生かし、今後も広く「子ども」に関わる作品群でのジェンダー意識の検証を継続していく。
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Research Products
(1 results)