2001 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀西洋植民地主義文学研究-「帰還せざる白人男性」の物語
Project/Area Number |
13610689
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
大貫 徹 名古屋工業大学, 工学部, 教授 (30203871)
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Keywords | ロチ / コンラッド / 帰還せざる白人男性 / 母なるものへの憧憬 / 西洋植民地主義 / アフリカ騎兵 / 闇の奥 / ハーン |
Research Abstract |
「帰還せざる白人男性の物語」とは、19世紀末のヨーロッパ植民地主義とジェンダー問題とが密接に絡み合った物語である。その典型が、ピエール・ロチの『アフリカ騎兵』(1881年)とジョウゼフ・コンラッドの『闇の奥』(1899年)である。実際、この二つの作品は同じ構造を有している。白人男性である主人公は、故郷にその帰りを待つ白人女性の婚約者がいるにもかかわらず、黒い肌の原住民女性から離れられない。主人公は、帰国を決意しながらも、ずるずると植民地に滞在し続け、結局はその土地で死ぬ。問題は、対比的に描かれた二人の女性である。その肌色の違いばかりではない。主人公は、ヨーロッパ女性との間しか言語的・知的コミュニケーションが取れないにもかかわらず、この原住民女性から離れようとはしない。そこには単なるオリエンタリズム(E.サイード)では捉えきれないものがある。19世紀末のヨーロッパ女権拡張運動の最中に描かれたこの二つの物語はその当時の白人男性が女性に求めているものをはしなくも明らかにしている。それは「母なるもの」に対する願望である。 今年度は、研究初年度として、ピエール・ロチの生家であるロチ記念館(フランス・ロシュフォール市)を訪問した。実際に訪れて、その感を強くした。ロチは母の強い愛の中で育った。正確には、その愛が強すぎるがゆえに、むしろそこからの脱出をたえず考えざるを得なかったほどである。ロチの人生とは、したがって、母の愛からなる濃密な情愛空間からの脱出とそこへの回帰の連続である。 次年度は、研究最終年度として、ジョウゼフ・コンラッドの少年時代を探ってみたい。コンラッドは、本来、生粋のポーランド人である。それが波乱の少年時代を送ることで、いつかイギリスに辿り着き、やがてイギリスに帰化する。両親を若くして失うことで、彼の人生は大きく変化するのであるが、その際の「母なるもの」への憧憬という観点から調査してみたい。これはコンラッド研究への新しい視点となるはずである。
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Research Products
(2 results)