2001 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13620006
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
海老原 明夫 東京大学, 大学院・法学政治学研究科, 教授 (00114405)
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Keywords | 財産権 / 収用 / 損失補償 / 特別犠牲説 / 憲法訴訟 |
Research Abstract |
本年度においては、1981年の連邦憲法裁判所「砂利採取決定」以降、2Q年間にわたる所有権保障をめぐる判例・学説の発展を跡づけるために、資料を調査・渉猟・収集し、判例を中心に分析を行った。とくに、我が国で通説となっている特別犠牲説的見解を改めて斥けた1999年3月2日のドイツ連邦憲法裁判所決定と、それに関連する行政裁判所や民事裁判所の近似の諸判決を検討した。そこから明らかになったのは、1981年の「砂利採取決定」以後も特別犠牲説的見解を堅持する判決がしまらくは散見されたが、1990年代になるとそうした傾向は影を潜め、所有権の内容的規定(ドイツ連邦共和国基本法第14条第1項)の問題と、収用規範(同条第3項)の問題とを峻別する連邦憲法裁判所の立場がほぼ受け容れられるようになってきたこと、そして学説、判例の議論の中心は、収用規範には補償についての定めが備わっていなければならないことを要求する連結条項(同条第3項第2文)を充たすために、法律にあらかじめ設けられる「収用的効果がある場合には補償をする」という趣旨の概括条項(いわゆる救済条項)が果たして合憲なのかという点に移行してきた、ということである。とくに注目すべきなのは、この救済条項を、所有権の内容規定と収用規範の峻別を前提とした上で、収用による補償ではなくて、損失補償義務を伴う内容規定についての定めである、とする解釈論が提出されていることである。しかしまだ、議論は流動的であるようで、今後とも判例・学説の展開を見守る必要がある。このようなドイツでの展開に即応して、当初の計画とは異なって、「救済条項」の問題を他の諸論点に先立って取り上げてきた。次年度には、この点についての成果を論文にまとめながら、その他の論点にも考察を拡大する予定である。
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