2002 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13620110
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Research Institution | DOSHISHA UNIVERSITY |
Principal Investigator |
橋本 卓 同志社大学, 法学部, 教授 (00208448)
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Keywords | タイ / 政治学 / 地方自治 / 地方分権 / 民主化 |
Research Abstract |
14年度は前年度に続き、タイの地方分権化状況について、関係資料収集と現地調査を行った。第1回は、2002年9月にバンコク、チェンマイにおいて、そして第2回は2003年2月にバンコク、南部地方において調査を実施した。具体的にはチュラーロンコーン大学、タマサート大学、チェンマイ大学、開発行政大学院大学などの研究機関において研究者4氏、および各地方において行政担当者である県知事、副知事、郡長、自治体助役、自治体議員・職員、また農村部の村長、住民など多数の関係者から聞き取りを行った。 当初本年度は都市自治体、すなわち市・町についても調査を実施する予定であったが、限られた時間では多数の自治体の調査が困難であったこと、また農村部自治体であるタムボン自治体が新設後間もないこともあって、多くの問題を抱え、その行政に様々な混乱が生じているため、タムボン自治体を中心に中央行政との関係をさらに詳しく調べ、その実態が民主化の動向にどのような影響を及ぼしつつあるのかを、考察することにした。 97年の民主的な新憲法の制定後、「民主化」は制度的、形式的には確実に進展し、地方分権政策の実施は都市部だけでなく、農村部自治体の自治行政の拡大を、各種の法制化と中央からの権限委譲、そして税制の改革や財源配分の見直しなどによって確保しつつあるといわれる。また政治参加についても、議員定数も増え、女性の立候補も増加するなど、地方住民の関心は拡大した。ところが実際には、全般的に未熟な行政能力にもかかわらず権限拡大や予算配分が拙速に進められたため、従来から農村部行政の宿痾であった不正を皮肉にも増幅させることになった。 つまり、地方分権政策により制度的には地方自治体と住民に政治参加と自立的な行政の機会が与えられたが、その結果個々の自治体の行政能力によって大きな格差が生じ、住民自身の意識や能力も問われることになったのである。そこで今後は、コミュニティレベルの市民社会の成熟をも視野にいれた地方分権研究が不可欠となってこよう。
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