2001 Fiscal Year Annual Research Report
18世紀中葉スコットランドにおける貧民対策思想の総合的実証研究
Project/Area Number |
13630014
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
関 源太郎 九州大学, 経済学研究院, 教授 (60117140)
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Keywords | スコットランド / 18世紀 / 貧・窮民救済の思想と制度 / 自発的献金 / 課税制度 / 工業化 / 都市化 |
Research Abstract |
スコットランドでは、18世紀末から19世紀初頭にかけて急速に工業化と都市化が進展した。それに伴い、都市における貧民・窮民も増加し、従来の救済制度も変容を来すことになった。そのポイントは大きく言って二つある。第1は組織の問題であって、従来の教区中心の組織に加え、市行政組織およびギルドが運営する「タウンズ・ホスピタル」が教区から窮民を受け入れたことである。第2は資金の問題であって、教区教会の戸口や集会での自発的な献金という従来の方法と並んで「アセスメント」と呼ばれた一種の税金が課され、それは主に「タウンズ・ホスピタル」の運営費と教区での救済費の補助に当てられた。ここに、従来の「田舎型」と「都市型」との2種類の制度が並立することになった。このような事態を押し進めた大きな現実的要因は、確かに従来の研究が明らかにしているように、工業化と都市化の急激な展開であったことは間違いないであろうが、この事態を受け容れた要因--人びとの思想的要因はどのようなものであり、それはいつ頃から、どのような形で培われてきたであろうか。特に、貧民・窮民救済の現場およびその近辺で活動していた者たちの間ではどうであっただろうか。このような観点からすると、18世紀中葉に刊行された(正確な刊行年は記されていない)匿名の一パンフレットが注目に値する。これは、エジンバラの「慈善ワーク・ハウス」の運営資金を、従来の献金額の減少してきた事態などを受けて、これのみならず新たな課税によってまかなうことを提唱しているからである。いまだ、このような事業は自発的献金によるべきだという思潮の強かった当時の歴史状況にあっては、これは重視されるべき提唱であろう。むろん、この単純な延長上に制度変容を受け容れた要因が育まれたと理解することはできないが、こうした主張の積み重ねが素地を用意したと捉えることはできないであろうか。
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