2002 Fiscal Year Annual Research Report
18世紀中葉スコットランドにおける貧民対策思想の総合的実証研究
Project/Area Number |
13630014
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
関 源太郎 九州大学, 経済学研究院, 教授 (60117140)
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Keywords | スコットランド / 18世紀 / 経済開発 / リネン製造業 / 毛織物製造業 / 貧民対策 / 雇用創出 |
Research Abstract |
本年度は研究の柱に一つである経済開発による貧民対策の提言の研究に焦点を絞った。1727年に、イングランドとの合邦によりスコットランドが得た「代償金(Equivalent)」を主要な資金源として経済開発を促進するスコットランド漁業製造業振興管財人評議会が設立された。30年代にはその活動をめぐり論争が起こった。同評議会は政治的な理由にも影響され、むしろリネン製造業振興に傾斜した活動を行っていた。これを背景に、リネン製造業推進派および毛織物製造業推進派、いずれの陣営も貧民の発生は経済開発の遅れが原因だと認めながらも、活動の主たるターゲットをリネン製造業に絞ることの当否について論議が闘わされた。リネン製造業の強化を訴えるパトリック・リンズィとリネン製造業の振興に偏ることなく産業一般の奨励を求めるトマス・メルヴィルとの論争に見られる通りである。その後、同評議会の活動はますますリネン製造業の振興に絞られていったが、70年代になっても依然として毛織物製造業の振興を求める意見は絶えることはなかった。この時期に毛織物製造業の振興を唱道した代表者の一人、デイヴィッド・ロッホは、スコットランドのステイプル産業としての毛織物製造業の重要性を高調した。彼が注目するのは、リネン製造業の原料であるリントは評議会の努力にもかかわらず依然として輸入に頼らざるを得ないのに対して、毛織物製造業の原料である原毛はスコットランドの気候・土壌に適した土着のものであり、したがって、毛織物製造業を振興することは牧羊業という伝統的な第一次産業も振興することになり、製造業のみならずここでも大きな雇用が生まれることである。その結果、ロッホによれば、7歳から老齢の男女にいたるまで広く雇用機会を提供するのであった。こうして彼は、毛織物製造業の振興は貧民対策でも大きな役割を演じると主張した。
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