2003 Fiscal Year Annual Research Report
18世紀中葉スコットランドにおける貧民対策思想の総合的実証研究
Project/Area Number |
13630014
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
関 源太郎 九州大学, 経済学研究院, 教授 (60117140)
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Keywords | 18世紀 / スコットランド / 貧民救済 / 勤労の精神 / ワークハウス / 経済開発 |
Research Abstract |
本年度取り組んだ個別課題は、(1)P.リンズィの貧民対策思想、(2)エジンバラのワークハウス設立案に見られる貧民対策思想の2点である。(1)について。リンズイは貧民を生み出す最大の原因を雇用不足と捉える。元来人間は活動的存在であり、雇用されると国富の源になるが、失業すると私有財産の侵害や社会騒擾の原因となる。それ故雇用の拡大こそが貧民対策の要となる。雇用ファンドは国内需要と海外需要からなるが、前者に頼りすぎると奢侈の風潮が蔓延し、かえって雇用ファンドを減じる結果になる。後者こそ進むべき道であり、そのためにはスコットランドの「ステイプル産業」、リネン製造業を振興すべきだと提言する。貧民の犯罪者には厳罰を要求するだけでなく、彼らにもリネン製造のための紡糸や織布の技術をワークハウスで習得させるよう提言する。特に年少者の場合は、その点が「勤労」の精神の教育と共に強調される。リンズィは、貧民に雇用を与え、その雇用に応えられるように貧民を鍛え上げることによってスコットランドの経済開発を押し進めようとした。(2)について。実際にワークハウスが設立された1740年に先立ち提言された「設立建白書」の要点は以下の通りである。(1)貧民救済のための公的施設(ワークハウス)を建設する方が、従来の個別的献金によるよりも社会的経費が節約できること。(2)このことを主として達成するのは、ワークハウスに収容された貧民がそこで生産技術を習得する共に「勤労の精神」を身につけ、自らを扶養する手段を入手することによること。つまり、従来の貧民救済制度が限界に突き当たり、その打開のためワークハウスの設立を訴えると同時に、スコットランド都市部の商業社会化への本格的始動を迎え、それにふさわしい主体の形成を目指したと言える。これをグラースゴウの「設立建議書」と比較すると、後者は主体形成をグラースゴウ周辺の地域経済開発と絡めて主張するのに対し、前者にはこうした視点が欠如している。
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Research Products
(1 results)
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[Publications] Gentaro Seki: "'Policy debate on economic development in Scotland : the 1720s to the 1730s', in T.Sakamoto & H.Tanaka (eds.), The Rise of Political Economy in the Scottish Enlightenment."Routledge. 215(22-38) (2003)