Research Abstract |
我々は,今回の研究方針として,実態調査のなかから新たな事実や理論的な疑問点を見出し,それについて現実的で緻密な経済学研究を行うとともに,現実的で建設的な政策的提言を行うことを重視している。 まず,(1)価格カルテルの研究については,(i)事例研究として,水道メータの入札談合の事例を扱い,いくつかの地方公共団体等へのヒアリング結果と政府統計資料により,カルテルのもたらした価格変化と損害額を推計した。(ii)カルテルに対する現行政策の有効性については,課徴金制度のカルテル抑止効果についての理論研究を行った。この論文のレフェリーからは,「本論文は制度を反映したモデルを組み立て,そこから興味深い結論を導いているという点で高く評価できる。」というコメントをいただいた。(iii)カルテルに対する政策提言としては,望ましい課徴金制度の理論的研究を行った。 次に,(2)合併・買収と提携の研究については,(i)主要産業における実態調査として,世界における主要な合併・買収や提携および世界的な市場集中について調査・資料収集を行った。これまでに取り上げた産業は,自動車産業,鉄鋼産業,航空輸送産業,二輪車産業,自動車部品産業,航空機産業,および,IT産業,特に半導体デバイス,半導体製造装置,パーソナル・コンピュータ,ソフトウェア,モバイル機器であった。さらに現在,機械産業,電気機器産業へと対象を広げているところである。(ii)企業合併に対する規制の問題として特に注目すべき事例として,日本の航空輸送産業の再編となる日本航空と日本エアシステムの統合をとりあげ,その評価についての研究を現在行っているところである。これまでの研究は,ヒアリングによる実態の調査と整理の段階であり,この作業を今後も継続する必要があると同時に,次の段階として,確認された事実の経済学的理解,また,そこから得られる政策上の含意ついて研究を進める段階に来ている。
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