2001 Fiscal Year Annual Research Report
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13630093
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
山崎 志郎 東京都立大学, 経済学部, 教授 (10202376)
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Keywords | 戦時経済 / 金融統制 / 戦時金融金庫 / 国民更正金庫 / 中小企業整備 / 閉鎖機関 / 木造船 / 機帆船 |
Research Abstract |
2000年春に東京都立大学に搬入した閉鎖機関の資料を利用し、国民更生金庫と戦時金融金庫が果たした役割を明らかにした。当該2機関の資料は木箱500箱以上ある上、劣悪な保管状況にあったため、この研究では丹念なブラッシングとファイルの補修、保存用段ボール箱への詰め替え、マイクロ撮影などの基本的な資料保存・整理作業に最も多くの経費を費やさざるを得なかった。しかしこの1年間だけの作業でも、国民更生金庫と戦時金融金庫の業務について、以下の点が明らかになった。 戦時金融金庫は一般にハイリスクの軍需産業への融資を中心に行ったと理解されており、今回の研究でも、全投融資案件を悉皆調査した結果、その点が確認された。しかし戦時金融金庫がそうした軍需大企業への大口融資ばかりでなく、大量の小口融資を行っていた点が明らかになった。その多くは機帆船輸送会社と木造船会社である。機帆船による沿岸輸送は、平和時においても我が国物流の重要な担い手であったが、太平戦争期の大型汽船輸送力の激減を受けて、重要物資輸送に徹底的に動員されることになった。このため、資力・信用力の弱い、木造船業者、機帆船輸送業者の必要資金を確保する必要が生じた。こうした融資業務には民間金融機関では応じきれず、1942〜3年以降その多くは戦時金融金庫に持ち込まれることになった。また大型造船所の計画造船が開始されるにあたって、既存の注文をキャンセルした結果、造船所では前受金の返納による膨大な運転資金不足が生じた。こうした特殊事業による資金不足にも戦時金融機関が対応している。同様に工作機械工業の受注をキャンセルして1944年に航空機部品生産に大転換をはかった際の資金不足などにも臨機に対応していた。そして南方接収企業への運転資金供給なども戦時金融金庫の重要業務であった。こうした特殊事情による不正常な資金需要が発生し、新事業が機密情報を含むため民間金融機関のリスク・管理が及ばない領域全般が戦時金融金庫の活動範囲であった。 一方国民更生金庫は中小企業の整理政策が打ち出された1940年暮れから構想され、41年度末から本格的に事業を開始し、中小企業整理を促進する役割を果たした。同金庫は所管省であった商工省の行政全般を網羅した『商工行政史』全24巻でも、僅か1頁しか記述がないほどその実態が知られていなかったが、今回の研究で100万件の転廃業企業の資産処理を行った上、工業組合・商業組合等による転廃業者への共助金の貸付を行っていたことをした。またこうした資源・労務動員を目的とした企業整備計画の推進に際しては、転廃業者の資産評価方法にかなりの優遇措置がとられ、これが大きな摩擦を生むことなく巨大な規模での事業整理と転換が進んだことなどが明らかとなった。これらの分析結果は2001年10月の土地制度史学会秋季学術大会でパネルを設定して報告した。
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Research Products
(4 results)
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[Publications] 山崎志郎: "総動員体制後期の物資動員計画"原朗・山崎志郎編『後期物資動員計画資料』第1巻. 3-25 (2001)
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[Publications] 山崎志郎: "戦時経済総動員と造船業"石井寛治・原朗・武田晴人編『日本経済史』第4巻. (2002)
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[Publications] 山崎志郎: "物資需給計画配給機構"原朗編『復興期の日本経済』. (2002)
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[Publications] 原朗, 山崎志郎編: "『後期物資動員計画資料』全14巻"現代史料出版. 7000 (2001)