2001 Fiscal Year Annual Research Report
経営者の報告利益に対する平準化行動と株式市場の反応に関する実証研究
Project/Area Number |
13630173
|
Research Institution | Osaka University of Economics |
Principal Investigator |
加藤 千雄 大阪経済大学, 経済学部, 講師 (90319567)
|
Keywords | 裁量的利益管理行動 / シグナル効果 / 会計利益に対する株価の反応係数 |
Research Abstract |
従来,企業経営者による裁量的な利益管理行動は,経営者自身への利得誘導という利己的な側面が強調されてきた。しかし最近の研究では,裁量行動に合理性を認める議論もあらわれている。この合理性の議論が成立するためには,(1)裁量的な報告利益管理が将来の業績動向に対するシグナルとして機能していること,また、(2)このシグナル機能を市場が認識し,会計利益への市場の反応を通じて効率的な資源配分が達成されること,という2点を明らかにする必要がある。そこで今年度は,(1)銀行の不良債権処理と,将来の業績動向と株価の関係(2)一般事業法人の公表利益の平準性と株価の関係の2つのテーマに取り組んだ。 (1)銀行の不良債権処理では,邦銀の不良債権処理がWahlen, Beaver & Engleなど米国の1980年代を対象とした研究で議論された,シグナル仮説と整合的な状況にあることを,1990年代の銀行財務情報から確認した。即ち,予想外の不良債権処理費用は,当期の株式リターンおよび翌期の利益と正の相関関係にあった。不良債権処理という,本来ネガティブな情報が,市場で肯定的な評価を得る可能性を示すものであり,これも利益管理行動の一類型である。 (2)分析対象を一般事業法人に拡張した利益平準化行動の分析については,利益の時系列における平準性が,株式リターンにプラスに働くことを確認した。極端に大きな会計利益の変動に対して,株価は相対的に小さな評価を与えていた。これは従来クロス・セクションで確認されていた会計利益に対する株価の反応の非線形性を,個別企業の時系列特性の観点から新たに検証したものである。 これらの結果を踏まえ,今後は発生項目を使い,利益平準化行動を抽出すること,またこの平準化に対する市場の評価を確認することが,残る課題である。
|
Research Products
(1 results)