Research Abstract |
繰り返しを伴う金属のすべり摩耗では,すべり距離の増加に伴ってシビア-マイルド摩耗遷移が生じる.この機構の一つとして,摩擦面での酸化膜生成が知られており,数10nmの非常に細かい酸化摩耗粉が固着・焼結されて,酸化膜が摩擦面に生成することが知られている.今年度の研究では,数10nm〜数μmのFe_2O_3粉またはFe粉を鋼の摩擦面に供給し,その粉末サイズがマイルド摩耗遷移に及ぼす影響を調べ,マイルド摩耗に寄与する限界の粉末サイズや摩耗面の酸化膜の生成について検討した. 粉末を供給しなかった場合には,終始シビア摩耗であったのに対し,30nm,300nm,500nmのFe_2O_3粉を供給した場合には,すべり距離の増加に伴ってシビア→マイルド摩耗遷移が生じた.一方,1μmのFe_2O_3粉を供給した場合では,シビア→マイルド摩耗遷移は発生せず,粉末なしの場合と同様な摩耗曲線が得られた. また,マイルド摩耗遷移が生じるFe_2O_3粉末の限界サイズは,試験荷重やすべり速度が大きくなるにしたがって小さくなった.このように,マイルド摩耗に寄与する限界のFe_2O_3粉末サイズを試験条件によって示したのは,本研究が始めてである. また,Fe粉を供給したテストでは,20nmの場合はシビア-マイルド摩耗遷移は生じたのに対し,1.65μmの場合はマイルド摩耗遷移は生じなかった.20nmのFe粉は,摩耗テスト中に摩擦面上で酸化反応が生じていた.したがって,微細なFe粉は,摩擦面で酸化しFe_2O_3粉と同様にマイルド摩耗遷移を促進するといえる. 供給した粉末サイズが小さいほど,マイルド摩耗が生じるためのすべり距離が短くなった.これは摩擦面で酸化膜が生じやすいためと考えられる.また,高荷重,高速度になるほどマイルド摩耗が生じるためのすべり距離は長くなった.これらのことから,酸化膜の生成速度と除去速度の大小が遷移現象に関係していると考えれる. マイルド摩耗遷移後の摩擦面は,供給したFe_2O_3粉が固着して生成したと考えられる酸化膜が部分的に観察され,酸化膜は摩擦面に一様に生成するのではない.シビア→マイルド摩耗遷移における摩擦面の変化の様子を調査した結果,シビア摩耗の段階でもすでに酸化膜が生成していた.摩擦面が酸化膜で広く覆われるとマイルド摩耗が成立する.生成した酸化膜は,消滅してしまうものと,そのまま残ってその面積が増大するものがあった.
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