Research Abstract |
既存化学プロセスをグリーン化学プロセスへ転換する方法の一つとして,バイオ触媒プロセスの活用があげられる.本研究は,酵素をナノ次元疎水環境場に取り込ませ,酵素の三次元構造を包括的に安定化して,有機媒体中での変性を抑制しながら,効率よく酵素反応を行わせることを目的とした. 従来,有機溶媒に不溶な酵素触媒を,有機溶媒中での有機反応に利用するために,珪藻土のセライトに酵素を担持させ,有機媒体中で分散させる方法がとられている.固定化された酵素には,反応基質との分離が容易になる長所が生じる反面セライトには高密度で酵素を担持できないために,固定化酵素は非常にかさばり,大規模の化学合成反応には利用しにくいこと,セライトが酵素を二次元的表面で固定することから,固定化力が比較的弱く,酵素がセライト表面から徐々に脱離するなどの欠点をもつ.そこで,酵素を三次元的に取り込める疎水環境場の設計・作製を行った. ナノメートルサイズの均一な三次元空間を提供する素材として,高規則性メソポーラスシリカを選択した.ナノポーラスシリカは,シリカ源としてテトラエトキシシラン(Si(OEt)_4),鋳型剤として両親媒性のトリブロックポリマー(HO(C_2H_4O)_<20>(C_3H_6O)_<70>(C_2H_4O)_<20>H)を用いて,ゾルーゲル反応により合成した.合成条件を調節することにより,細孔径の異なる(6-9nm)メソポーラスシリカを調製した. メソポーラスシリカの固有の一次元トンネル状細孔の表面に存在するシラノール基を,種々のシランカップリング型((RO)_3Si(CH_2)_nX))と化学反応させることにより,細孔内部を疎水性にすると同時に,シランカップリング剤の末端部位がもつ特定の官能基(X)と酵素の官能基(アミノ基,水酸基,カルボキシル基など)との相互作用により,酵素を強固に固定化できる三次元疎水環境場を構築した. エステルの加水分解反応の触媒となる酵素リパーゼについて,今回作製した三次元疎水環境場をもつメソポーラスシリカの固定可能と,市販のセライトの固定化能とを比較した.その結果,三次元疎水環境場をもつシリカは,セライトの約20倍のリパーゼを固定化できる能力をもち,しかも担持リパーゼの嵩が非常に小さくなることを見出した.また,この担持リパーゼを長時間有機溶媒と接触させても,その酵素活性は低下しないこと,また,有機溶媒中へ散逸しないことも見出した. 上で見出した加水分解酵素を固定した複合体の触媒作用を,エステル化反応を用いて調べた.特にメソポーラスシリカのもつナノメートルサイズの反応場を活かす反応として,長鎖カルボン酸のエステル化反応を選び,エステル化速度が向上することを確認した.
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