Research Abstract |
含鉄資材のメタン放出量に対する影響を圃場試験および培養試験によって調査したこれまでの結果より,すべての種類の市販含鉄資材はメタン放出量を低下させないことが明らかとなった。そこで,今年度はメタン放出量を抑制できない原因である(1)含鉄資材のアルカリ分(pHを上昇させる)を低下させ,(2)溶解しにくい酸化鉄を還元をうけやすくすることを目的に,含鉄資材を塩酸処理によって改良を試み,その改良含鉄資材のメタン放出量および水稲生育に対する効果を圃場条件で明らかにした。含鉄資材は主原料によって,転炉鉱さい,高炉鉱さいに赤鉄鉱を加えた資材,マンガン鉱さい,の3つに区分されたので,この3種より代表資材を1つ選択し,pHが6.5になるように塩酸処理を行った資材を作成した。 3種のオリジナルの市販含鉄資材は,主に窒素供給量の増加(pH上昇による窒素無機化促進)とケイ酸供給によって水稲生育を向上させたが,pH上昇によってメタン放出量を対照区に比べて18〜37%増加させた。一方,3種の改良含鉄資材は,圃場条件でメタン放出量を減少させた(10〜41%)。転炉さいおよびマンガン鉱さいを改良した含鉄資材の添加は,土壌の還元性酸化鉄を増加させ,メタン放出量を減少させた。一方,改良によって易還元性酸化鉄が増加していなかった鉄入り高炉さいでは,土壌pHの低下がメタン放出抑制の原因と考えられた。3種の改良含鉄資材の添加区では,塩酸とCaOとの反応で生成した改良資材中の塩化カルシウムが土壌溶液濃度を高め,水稲の初期生育を抑制したが,最終的には生育は回復し,対照区(資材無添加)に比べて水稲の玄米収量が増加した(34〜46%)。 近年,改良資材施用量の低下に伴って,水田土壌におけるケイ酸供給能の低下や土壌肥沃度の低下が指摘されている。このような背景から,塩酸処理によって改良した含鉄資材は,ケイ酸,酸化鉄,塩基,微量要素の供給といった総合的な土壌改良を可能にし,かつ水田におけるメタン放出を減らすことができることから,持続的かつ環境にやさしい水稲生産技術を構築する上で有効なオプションであると結論された。
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