Research Abstract |
1.[目的]福岡県久山町における長期追跡調査の成績をもとに,悪性腫瘍(MA)死亡に及ぼす耐糖能異常の影響の時代的変化を検討した.[対象と方法]1961年に設定した40歳以上の前期第1集団1621名と,1974年に設定した同年鶴の後期第2集団2053名を,それぞれ13年間追跡した.追跡期間中に各集団の死亡例の80%以上を剖検し,第1集団では102例を,第2集団では133例をMA死亡と判定した.追跡開始時の耐糖能異常の有無とその後のMA死亡との関係を両集団間で比較した.[結果]両集団を比較すると,全MA死亡率に有意な変化はなかった.第1集団では,男女で喫煙が全MAの有意な危険因子となったが,第2集団では,喫煙のリスクが減少し,男性で耐糖能異常が全MAの有意な危険因子となった.さらに,MAを肝・膵癌とその他のMAの2群に分けると,第1集団の男性では,両者の間に明らかな関係はなかったが,第2集団では,耐糖能異常はその他のMAの有意な危険因子となった.一方,女性では,耐糖能異常は両集団において肝・膵癌死の有意な危険因子となった.[結論]近年,久山町の男性では,耐糖能異常がMAの危険因子として台頭した. 2.[目的]最近の久山町住民の大多数に75g経口糖負荷試験を施行した後に追跡調査を行い,MA死亡に及ぼす耐糖能異常の影響を検討した.[対象と方法]1988年に,久山町の成人検診で糖負荷試験を受けた住民にインスリン治療者9名を加えた2,487名(受診率約80%)を5年間追跡した.この間に106例が死亡し,そのうち85例(80%)を剖検した.臨床情報と剖検所見より50例をMA死と判定した.追跡開始時の耐糖能レベルとその後のMA死との関係を,追跡開始時に収集した他の危険因子の影響を調整して検討した.[結果]追跡開始時の耐糖能レベルとその後のMA死の関係をみると,男女で糖尿病はMA死の有意な危険因子であった(相対危険:男性2.5,P=0.02,女性5.2,P=0.007).また,空腹時および負荷後2時間の血糖値も,男女でMA死亡の有意な危険因子となった.この関係は,多変量解析において他の危険因子を調整しても変りなかった.[結論]最近の地域住民では,糖尿病はMA死の有意な危険因子であることが示唆された.
|