Research Abstract |
歯周病は,歯周病関連細菌の感染により起こる炎症性疾患であり,宿主の免疫応答によりその進行が調節される. 我々は,歯周病のリスクファクターの1つであるストレスと歯周病の関係を解明するために,実験的歯周炎を惹起したラットに拘束ストレスを与えた結果,歯槽骨吸収が著明に進行することを報告した.しかしながら拘束中のクレンチングが歯周病の進行を助長している可能性があると考え、咬頭を削合した状態で拘束ストレスを与えた結果,同様に歯槽骨吸収が進行した.この結果より,咬合因子は歯槽骨吸収には関与せず,拘束ストレスが歯槽骨吸収促進に直接関与している可能性が示唆された.また,ラットに拘束ストレスを与えると,炎症性歯周組織の血管周囲付近における神経線維の密集像と数珠状化,および神経末端部が黒く膨隆した房状像が多く認められた.そこで、我々は神経ペプチドの1つであるサブスタンスP(SP)に着目し,そのレセプターのメッセンジャーRNA(mRNA)がラット歯槽骨周囲の細胞に発現しているか否かを検索した.SPは,脳,脊髄,腸,骨組織,歯周組織に広く存在し,痛覚伝達や平滑筋の収縮,血管拡張などの作用を調節すると報告されている.また,単球やマクロファージ,Tリンパ球,Bリンパ球などの免疫担当細胞中にSPのレセプター(SPR)が存在し,免疫系の調節にも関与していることが報告されている.さらにSPRが,骨細胞,骨芽細胞,破骨細胞など,骨に関連する細胞中に発現している可能性も報告されており,SPがSPRを介して,直接,骨代謝も調節している可能性がある.そこで今回,歯槽骨周囲におけるSPRのmRNA発現と局在をin situ hybridization法により検索した結果,歯槽骨周囲にSPRのmRNA発現細胞が多く認められた.また,これらのに多くがTRAP陽性を示し,SPR mRNA陽性細胞とTRAP陽性細胞が同一の細胞であると思われる細胞も多く確認された。これらの結果から,ラットに拘束ストレスを与えると,末梢神経終末から放出されたSPが歯槽骨周囲の骨代謝関連細胞(骨芽細胞,破骨細胞)のSPRに作用することにより,活性化させる結果,歯槽骨吸収を促進させることが示唆され,ストレスと歯周病進行とを関連づける意義のある知見が得られた.
|