2002 Fiscal Year Annual Research Report
糖尿病網膜症の発症に関与する硝子体の生理機能の変化
Project/Area Number |
13672302
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
小佐野 博史 帝京大学, 薬学部, 助教授 (40246020)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西郡 秀夫 帝京大学, 薬学部, 教授 (90050517)
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Keywords | 糖尿病網膜症 / 硝子体 / 増殖膜 / 血管透過性亢進 / フィブロネクチン / MMP-2 / 細胞接着性 / 血管新生 |
Research Abstract |
糖尿病初期に起こる網膜血管の透過性亢進による血漿成分の血管外漏出は、無血管組織である硝子体が血液成分と接触する原因となり、糖尿病網膜症等に特徴的な眼内血管新生が起こりやすい状態に硝子体を変化させていくと考えられる。しかし、ヒト硝子体を器官全体として実験に供することは不可能である。そこで本研究では、糖尿病による血管透過性亢進状態を試験管内で再現するため、鶏胚硝子体を血漿と作用させ、硝子体における細胞接着性の変化を検討した。 血漿と共に37℃で3時間インキュベーションした硝子体には血漿由来のフィブロネクチン(FN)が付着し、未処理硝子体に比べて強い細胞接着性を示した。また、血漿処理硝子体に低分子ヘパリンを作用させると、FNが遊離されたことから、FNはヘパリン結合部位を介して硝子体に結合していると予想された。さらに、血漿処理硝子体には血漿由来と思われるプラスミノーゲンも検出された。 無血管組織である硝子体は生理的条件下において血液成分とほとんど接触する機会はないが、糖尿病による網膜血管の透過性亢進により、硝子体が血液に晒されると、FNやプラスミノーゲンに代表される数多くの血液成分が硝子体に付着する可能性が明らかとなった。本研究で明らかになった血漿中のFNが硝子体表面に付着し、、細胞接着性が増大するという結果から、硝子体膜表面の細胞接着性の変化が増殖精尿病網膜症に特徴的な増殖膜の形成に関与しているのではないかと推測している。 また、血漿処理後、硝子体中のマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)活性を測定したところ、硝子体中に存在する分子量72kDaのProMMP-2だけでなく、活性型MMP-2が検出された。血漿処理による硝子体中のProMMP-2の活性化は、硝子体に付着した血漿由来のプラスミノーゲンと、昨年度の本研究課題で明らかにした硝子体表面に存在するu-PAとにより引き起こされる可能性が示唆された。血管透過性亢進により硝子体のMMP-2が活性化され血管新生優位な環境へ変化するのか、MMP-2の分子内に存在する血管新生抑制部分(PEX)の産生を促進し、血管新生抑制の方向へ変化するのか、生理的意義について詳細な検討が必要と考えている。 硝子体を試験管内で血漿と作用させるという今回のモデルは、鶏胚硝子体でなければ不可能であり、糖尿病初期に起こる網膜血管透過性亢進が硝子体に与える影響を解明する上で有用と思われる。
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