2002 Fiscal Year Annual Research Report
大学教育におけるネットワークを活用した学習環境と教授法に関する基礎研究
Project/Area Number |
13680251
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
井下 理 慶應義塾大学, 総合政策学部, 教授 (30129069)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田部井 潤 浜松大学, 国際経済学部, 助教授 (50267861)
柴原 宜幸 日本橋学館大学, 人文経営学部, 助教授 (30327275)
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Keywords | CSCL / 対面コミュニケーション / Computer-mediated Communication / 教授法 / 授業研究 |
Research Abstract |
平成14年度は、平成11、12、13年度(後期)に実施した「組織(集団)コミュニケーション」の授業実践全体を振り返った。教育の「実践と研究」とを同時進行させる問題点と留意点の検討を中心に行った。昨年までに収集された当該授業実践に関する実証的データや経験などをもとに3年間の試みについて、研究の方法論的検討を中心に進めた。その結果、本研究の表題の一部にも記された「基礎研究」としての性格づけは、ほぼその目的が達成出来たと思われる。その理由は、大きく次の2つの成果に起因する。第1は、本研究が当初想定したネットワーク環境を活用した授業実践のデザインや授業方法の開発に関連しての知見である。それらは主として平成14年度の本研究の成果として報告ずみである。第2の成果とは、第1の成果に比較してはるかに実り多く、基礎研究あるいは方法論的基盤研究として成果があった。この成果は、当初予想していなかった発見があったことに帰する。今後の同種の教育現場での実践的研究をする上で極めて重要な点を認識することができた。教育実践の臨床的研究をする場合の研究者集団のあり方は学習者からすると重要な学習環境の一部を構成する。教育実践および研究推進にとっても大いなる反省及び留意点である。つまり、教育工学あるいは教育心理学的研究がもつ現場研究における研究対象と研究主体との関係形成の問題である。コンピュータ・ネットワークのインフラ整備や授業のデザイン、授業実践の方法など、学習環境や教授方法の検討が重要であることは明らかであるが,当該テーマを巡る実践的研究において学習者から見たときの研究者集団の研究対象への姿勢や態度の問題が、被調査者に及ぼす影響は研究においても教育実践においても根幹をなす「学習環境」を形成する。3年間の試行を経て,それらを振り返ったときに初めて明瞭に見えてきたといえる。研究対象への研究者集団の姿勢の問題であり、自覚の欠如がもたらすマイナス効果についての発見である。人間工学的手法の限界をどのように理解認識し,それらのもたらす弊害を極小化するか、そうした関心と観点抜きにして、この種の研究は実り多いものとなりえない。ネットワーク環境が整備され、教育プログラムが協調学習活動に関する優れたデザインを具備していても、同時進行する研究活動がいかなる体制姿勢で展開されているかという点への配慮は、方法論的に極めて重要であることが経験的にも明瞭にわかった。授業実践のデザインが及ぼす影響は大きい。しかし、それらを包含しつつ、基本的関係形成へより大きな基盤をなすのは、対象者に対する研究者及び教育実践者のそのときの姿勢である。ネットワークでオンライン及びオフラインでのコミュニケーション行動が促進されたとしても、それをより上位の観点からどのように観察し考察しているか、それがもたらす影響はとりわけ大きい。それは全体を包み、グループウエアやローカルルールを越えて比較にならないほど大きな影響を全体に及ぼす。3年間の試行を振り返ると初年度は、基礎的デザインの試案をとりあえず実行可能かどうかを検討するための試行段階であったが、2年目の試みは研究的色彩があまりに前面に出たために後から振り返ると教育実践という面では大いに反省すべき点が顕在化した。そして3年目には、受講者数の減少から極めて少ないケースの研究とならざるを得なかった。教育実践としては、しかし、この3年目の授業展開がもっとも成功した例と言えるであろう。授業デザイン面でも、研究面でも研究対象にあまり負荷をかけすぎずに円滑な授業展開が可能であったと思われ,結果もそれまでの2年間よりもずっと混乱や問題が生じることなく円滑に推移したといえる。「グループの性質によって、グループ成員全体の学習活動への参加は、課題志向型のグループよりも親和的なグループのほうが、協調学習の重要な機能である意見交換や再吟味を促進し、その結果として課題達成水準もより高いものを示した」同じことが研究者集団と対象者集団との間にも言えることがわかった。
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Research Products
(1 results)
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[Publications] 尾澤重知, 望月俊男, 江木啓訓, 柴原宜幸, 田部井 潤, 井下 理: "学生構成型協調学習におけるグループの学習活動の特徴"日本教育工学会大会第18回大会論文集. 449-450 (2002)