2003 Fiscal Year Annual Research Report
半自然的な生態系に生育する絶滅危惧植物の保護管理に関する研究
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13680660
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Research Institution | Hokkaido College, Senshu University |
Principal Investigator |
石川 幸男 専修大学北海道短期大学, 造園林学科, 教授 (80193291)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
近藤 哲也 北海道大学, 大学院・農学研究科, 助教授 (10153727)
本多 和茂 専修大学北海道短期大学, 造園林学科, 助教授 (30279442)
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Keywords | 自家和合性 / 個体サイズ / フラワーディスプレイ / 推移確率行列 / 行列モデル / 近交弱勢 / 住民参加 |
Research Abstract |
本研究で用いているカタクリにおいて、一昨年、昨年度の調査によって明らかとなった個体群ごとの特徴を、ひきつづき調査した。すなわち地域個体群ごとに異なっている繁殖特性について、特に自家和合性程度の違いとその機構を明らかにすることを目的に、蛍光顕微鏡を用いて受粉花粉の柱頭上での発芽から花粉管の伸長さらに受精に至る様子を観察、調査した。その結果、自家和合性の高い個体群では、受粉された自家花粉の柱頭上での発芽や花柱内での花粉管の伸長は良好で、多くの花粉管が子房内の胚珠の珠孔へと侵入していることが明らかとなった。一方、自家和合性の低い個体群においては、受粉された自家花粉はある程度発芽し、花粉管を花柱内へと伸長させるものの、子房内の胚珠へ到達するものは極めて少なかった。 また、科学研究費支給以前から継続的に観察していた個体群のデータに、これまで二年間の調査結果を加えて、個体サイズごとの推移確率行列を構築した。この推移確率行列を用いて、個体群の推移に関するシミュレーション実験を実施した。それによると自家和合性の程度が最も高い網走の個体群で、個体群が縮小してゆく傾向がうかがわれた。一方、上川と檜山の両個体群は安定した個体群構造を維持していた。このことは、自家和合性の獲得によって近交弱勢が発現している可能性が考えられた。 以上の結果を元に、網走地方、上川地方および檜山地方の個体群の保全策を考察した。上川地方と檜山地方の個体群では当面の間、個体群が縮小するなどの問題はなく、推移に任せておいて問題はないと判断される。一方、網走地方の個体群は現状で個体群サイズが小さく、自家和合性を獲得しているために近交弱勢が発現している可能性がある。遺伝的多様性を確保するためには、異なる遺伝子型の個体群からの遺伝子導入が必要であるが、それによって逆に、当地の個体群の特性が消失する危険性もある。当地の個体群は、地元住民が中心となって保護活動に取り組んでいるが、本研究で得られた成果を住民に開示し、今後の方針を論議・決定してゆくことが必要であると結論される。
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