Research Abstract |
本年度は,(1)顔とそれ以外の対象の認識メカニズムが独立のものであるかどうかを検討し,、顔に特異的なワーキングメモリがあるのかどうかを調べるため,ワーキングメモリ課題下で,顔,対象物,および文字刺激を用いて比較検討した。その結果,顔は記憶負荷が大きいほど成績が悪くなり,一方,対象物および文字に関しては記憶負荷の大きさに関わらず成績に差は見られなかった。このことから,顔に特異的なワーキングメモリがあることが示唆された。この結果をまとめたものを,国際学会および学術雑誌で発表した。 次に,(2)顔は状況や文脈の変化に応じて,顔に関する情報の選択や操作・処理などがなされているのかどうかを検討した。実験では,デジタルカメラ(本年度新規購入)で撮影した顔を画像処理ソフト(本年度新規購入)により顔の上半分と下半分が異なる表情刺激を作成して提示した。その結果,下半分の表情の影響を受けて上半分の目の大きさの知覚が変わるという現象が見られた。これは,我々が顔を知覚する際,目の大きさと表情間の関係に関する一般的知識を用いて処理していることを示しており,この知識の使用は,顔の情報処理に特有のものであることが示唆された。この結果をまとめたものを,学術雑誌に投稿した。 さらに,(3)顔と体の向きという変数を設定し,状況や文脈の変化に応じて顔の選択や処理がなされているのかどうかを検討した。刺激は,3Dキャラクターデザインソフト(本年度新規購入)を用いて作成した。その結果,顔と体の向きが一致しているときよりも不一致の方がより選択されて(注意されやすい)処理されやすいことがわかった。この結果をまとめたものを来年度国際学会で発表する予定である。 これらのことから,ワーキングメモリと注意の関係が示唆され,今後は,表情,人物,および顔や体の向きという変数を設けて,記憶選択課題を課して検討する予定である。
|