2002 Fiscal Year Annual Research Report
在日コリアンの北朝鮮帰国運動による家族離散と帰国運動前後史に関する人類学的研究
Project/Area Number |
13710183
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
李 仁子 東北大学, 大学院・教育学研究科, 講師 (80322981)
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Keywords | 東アジア / 文化人類学 / 移住 / 在日コリアン / 帰国運動 / 離散家族 / 北朝鮮 / 脱北者 |
Research Abstract |
50年代末以降の北朝鮮帰国運動により8万を越える在日コリアンが北朝鮮に集団渡航した。その結果、在日社会から多くの人材が流出すると同時に、故郷の親族から切り離されていた在日家族に新たな離散状況がもたらされた。本研究はそうした「帰国者」が在日社会で果たしていた役割を跡づけるとともに、帰国運動が生み出した在日家族の離散と交流の動向を実証的に明らかにしていくことを目指している。 本年度は、まず帰国運動の実態を少しでも明らかにするため当時の運動推進団体への取材を行い始めたが、国交回復や拉致問題などの余波で調査の中断を余儀なくされた。その代わり、最初の帰国者たちを受け入れた北朝鮮の担当責任者であった脱北者に会うことができ、当時喧伝されていた「地上の楽園」を北朝鮮は始めから用意するつもりがなかったことや、帰国者の到着直後からの扱われ方の実態に関して詳細に聞き取りをすることができた。 また、在日コリアンの戦後史の中に帰国者の姿を探るための作業も、少しずつだが資料の収集を進めることができた。同時に、本年度も帰国者を親族に持つ在日へのインタビューを重ねていったのだが、ここのところの北朝鮮をめぐる情勢の急変に伴い、よりいっそうの援助を北朝鮮の親族に送ろうとする人々と、身内に帰国者がいることをこれまで以上に隠そうとする人々とに、在日社会の両極分解が進んでいくのが、その過程で見て取れた。極東アジアの政治情勢は、帰国者と在日家族の間にまたもや新たな離散状況をもたらそうとしている。 さらに、脱北者と脱北帰国者へのインタビュー調査も昨年度に引き続き行うことができ、北朝鮮での暮らし向き、「故郷」に関する意識の在り方、自分の子どもたちが受ける教育をめぐる悩みなど、物心両面にわたって、脱北者と脱北帰国者との異同を比較しながら明らかにしていくことができた。
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