2001 Fiscal Year Annual Research Report
日本文学のジャータカ仏教説話と原型・インド説話との比較研究
Project/Area Number |
13710251
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Research Category |
Grant-in-Aid for Encouragement of Young Scientists (A)
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Research Institution | Otaru University of Commerce |
Principal Investigator |
中村 史 小樽商科大学, 助教授 (20271736)
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Keywords | 三宝絵 / 本生譚 / ジャータカ / スタソーマ / カルマーシャ・パーダ / 六波羅蜜 / 真実 |
Research Abstract |
今年度科学研究費補助金による活動報告。9月に資料収集のための出張、1月に研究発表と資料収集のための出張を行った。現在、つぎのように論をまとめつつある。--『三宝絵』の須陀摩(スタソーマ)王本生譚で、スタソーマ王は妄語戒を守って食人鬼(カルマーシャ・パーダ)を改心させる。この話は『大智度論』『六度集経』のスタソーマ王本生譚の系譜を引き、菩薩行としての六波羅蜜の一・持戒波羅蜜を例証する説話という性格をもつ。一方、『旧雑比喩経』『雑比喩経』等の比喩経典中のスタソーマ説話では、菩薩道に限定されない、世俗一般の人々にもむけたもっと素朴な倫理としての「至誠」が強調されている。『僧伽羅刹所集経』は独特の菩薩行を説き、その中に「審諦(波羅蜜)」をもつ。これはパーリ聖典の「十の完成(十波羅蜜)」の一、「真実の完成(真実波羅蜜)」に相当するが、『僧伽羅刹所集経』はスタソーマ本生譚を持戒波羅蜜ではなく、この審諦波羅蜜の例証話としている。パーリ聖典の世界では、アングリマーラを帰依させた仏を讃える「マハースタソーマ・ジャータカ」に「真実語」の主題を見出すことができる。遅れて成立した「(ジャータカ)ニダーナ・カター」や『チャリヤー・ピタカ』はスタソーマ・ジャータカを「真実の完成」の解脱に当てている。以上によって、スタソーマ本生譚はもともと不妄語、真実語を主題とする話として伝えられていたと思われる。「至誠」を説く比喩経典の例は本生譚となる以前の古い形であろう。そこで、「真実の完成」をふくむ「十の完成」説をとるパーリ聖典はスタソーマ本生譚をそのまま「真実の完成」の例証とした。一方、真実波羅蜜を欠く六波羅蜜説が主流となった漢訳仏典の世界では説話の機能に若干の修正が加えられ、スタソーマ本生譚は持戒波羅蜜の例証話となった(例外は『僧伽羅刹所集経』)。『三宝絵』の須陀摩王本生譚はこの系譜の最後に位置する。また、『楞伽経』類等はカルマーシャ・パーダを主人公とした類話を載せるが、それらは「断肉食」を教える説話となっている。叙事詩『マハー・バーラタ』「序の巻」等にはカルマーシャ・パーダの物語が存在するが、これらを見ると、この食人鬼の物語が「断肉食」とかかわって語られるのには伝統がありそうだ。--以上のうち前半を『日本の伝承・芸能・文学』(仮称・三弥井書店)に掲載予定・現在執筆中、また、後半を来年度仏教文学会大会(明治大学)にて口頭発表の予定・現在準備中。
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