2001 Fiscal Year Annual Research Report
畿内近辺における一向一揆及びキリシタン伝承の調査・研究
Project/Area Number |
13710253
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Research Category |
Grant-in-Aid for Encouragement of Young Scientists (A)
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
樋口 大祐 神戸大学, 文学部, 助教授 (90324889)
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Keywords | キリシタン大名 / フロイス / 『黄金伝説』 / 大航海時代 / 一向一揆 / 浄土真宗 / 貴種流離譚 / 楠 正成 |
Research Abstract |
研究代表者は昨年春、キリシタンと一向一揆に関する論文をそれぞれ1本ずつ発表した。キリシタンに関する論文は16世紀末成立のフロイス『日本史』の叙述の構造を分析したものであり、一向一揆に関する論文は、16-18世紀成立の歴史書・文学書(『石山退去録』を中心とする)に見える石山一向一揆に関する叙述を分析したものである。いずれも17世紀以降抑圧・忘却されてきた16世紀(大航海時代)の日本列島の文化的可能性、また、その過去の記憶が伝承・変形されていく過程の分析が主要テーマであり、今後の研究の出発点にあたるものである。 昨年度は、この延長線上で、キリシタンについては、『黄金伝説』等キリスト教聖人伝の物語的枠組みと、イエズス会宣教師書簡集や『日本史』における諸説話との相関関係について調査・分析した。今年度は聖人伝的枠組みからの宣教師達の離脱の過程の分析を中心に、日本人側の記録・伝承類との対比等を通じて、16世紀日本列島における他者意識の変化、文化を異にする者同士の交通の諸相、ひいては大航海時代の意義等について考察する。また、現地調査も含めた、近畿地方におけるキリシタン伝承の包括的な収集も進めたい。一方、一向一揆に関しては昨年度すでに諸伝承の大規模収集を終えているが、その結果、一揆に関する記憶が伝承の過程で、より古い時代(南北朝・室町期)の合戦に関わる貴種流離譚に変貌するパターンが存在することが明らかになった。また、真宗教団公認の伝承と、被差別部落における伝承では、視点において大きな差異があるものの、集合的記憶の形成を促進する物語性において共通することも判明した。今年度はより入手しにくい資料の現地調査と共に、集合的記憶を脱構築するような伝承についての分析を進めたいと思う。
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