2001 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13710290
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Research Category |
Grant-in-Aid for Encouragement of Young Scientists (A)
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
井上 直子 大阪教育大学, 教育学部, 講師 (80314441)
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Keywords | フランス文学 / ポール・ヴァレリー / 純粋自我 / 感受性 / まなざし |
Research Abstract |
ヴァレリーの思索の中心テーマである「純粋自我」の概念がはらむ二面性について、感受性と精神のシステムとの関わりを中心に考察した。ヴァレリーは、特に初期のテクストにおいて、システム構築の際に排除すべき要素として感受性をとらえている。しかし、のちに感受性が知性を凌駕するものという見解を持つようになり、ついには純粋感覚が純粋自我の作り手である、という記述を残す。さらには「考える主体」ではなく「感じる主体」をあらゆる認識の核に置く。このようにヴァレリーは「考えること」のみならず、「感じること」にも自我の基盤を置く。本研究では、この二面性が単なる矛盾ではなく、どちらもヴァレリーの本質をなすものであるということを明らかにした。また、視界から後退し、そこには決して姿を現さない純粋自我のまなざしに対し、世界と積極的にからまっていくまなざしにもヴァレリーが多く言及していることに注目した。前者の態度は、デカルトの「コギト」をさらに押し進めた、超越論的主体のなまなざしとしてとらえられる。これに対し、後者の態度は身体と世界の問題に関わるものであり、メルロ=ボンティとの類似を多く含む。そこで本研究では、世界と主体の絡み合いの問題を、メルロ=ボンティの視点を参考にしつつ解釈した。この分析を通して、デカルト主義に始まり、晩年には反デカルト主義に至ったとされるヴァレリーの思索が、どのあたりまでデカルト以降の哲学の流れに乗っているのか、言い換えれば、ヴァレリーが自分自身も知らなかった地平をどこまで切り開いているのかを明らかにした。
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