2001 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13730002
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Research Category |
Grant-in-Aid for Encouragement of Young Scientists (A)
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
杭田 俊之 岩手大学, 人文社会科学部, 助教授 (80281947)
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Keywords | 進化経済学 / 企業組織 / 市場制度 / 社会システム / 自生的秩序 / ハイエク / ヴェブレン |
Research Abstract |
(1)この研究では,進化経済学的観点から市場や企業といった経済的諸制度が経済システムを構成する上で重要な鍵となる情報と知識の問題に焦点を当てて市場制度と企業組織の関係を検討し,知識論的観点に照らすと企業組織が杜会システムを編成していくということが明瞭にうかびあがることを示してきた。J.A.シュンペーターのビジョンに示されるように企業による創造的破壊と革新がシステムとしての社会経済の発展にとって不可欠なものであるとするなら,企業組織こそが能動的に経済システムを構築していくものであると考えられる。新制度主義のアプローチに照らせば企業組織は取引費用を縮減し,情報の収集と処理をおこなうという点に企業組織の経済学的意味が存在する。同時に,経営学的観点からすれば企業組織は知識を創造するという点に創造的破壊の核心がある。このような現代的議論をT.ヴェブレンの企業理論に接合し,知識論的観点から再構成することで企業組織が文化的・社会的システムのジェネレーターであることを示す展望が得られた。 (2)他方,市場制度は価格メカニズムを通じて社会に分散する情報を集約し,このシステムに参加する諸主体を結合している。ネオ・オーストリー学派やF.A.ハイエクの議論にもとづけば市場制度こそが情報や知識,新事象の源泉となっている。ハイエクの自生的秩序についての議論は知識生成の問題を社会システム的観点から扱うという面でも,市場社会システムの進化を研究するうえでも非常に優れた枠組みを提示している。なるほど,企業組織もまた市場の一主体にすぎないといえば社会システムの内部で創造される新たな知識が市場に由来するといっても企業に由来するといっても同じことである。しかし,ハイエクの議論には企業の内部組織と企業組織の社会システムへの影響に関する考察が不十分である。この点を補完すると考えられるのが(1)で示した研究である。この研究では,進化経済学,制度の経済学で現在おこなわれている知識と情報に関する議論を取り入れることによって,ハイエクの自生的秩序の理論とヴェブレンの企業の理論とを接合することが可能となり,しかも,企業組織がその特質を決定する社会システムの理論(「企業のシステム学」)を構築していくことが可能であることを示した。
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