Research Abstract |
平成13年度は,研究計画の初年度として,まず旧来の計算機設備の更新を行った.これにより膨大な観測資料の処理能力が大幅に向上し,研究の効率的な遂行が可能となった. 海面熱フラックスのなかで,海洋の加熱はほとんど日射によって担われるので,本年度はこれと海面水温の関係に重点をおいて調べた.そのために,これまでの研究成果を活かし,衛星観測資料とシンプルな放射モデルを組み合わせた海面日射量の評価値を2001年9月まで延長した.可視観測資料については運用中のセンサの劣化が問題となるため,既所有の資料(1987年3月〜)から通して,より長い期間で一貫した再較正を行った.また,陸上・海上でのより多くの実測値を収集し,海域や季節による評価値の誤差のばらつきを検討するとともに,これをモデルの改良に反映させた.以上のプロダクトは,論文にて公表するとともに,他のフラックス成分と合わせてweb上で公開される予定である.また,海面水温の資料は,いくつかの研究/観測機関・プロジェクトの提供による海洋観測ブイの資料から抽出した. 加熱期の日射と海面水温の関係は,中緯度と熱帯域では大きく異なることがわかった.中緯度では,卓越する季節変動を反映して,海面水温の時間変化率と日射との間に高い相関があることが確認された.しかしながら,同じ中緯度にある日本近海でも,本州南方域や日本海に較べると東シナ海では相関が低く,この海域では黒潮の流路変動や陸棚水との混合など,水平過程にともなう熱の移流が熱の収支にとって重要であることがより明確に示唆された.また,上記の3海域では日射と海面水温時間変化率の間の位相差が異なり,日本海では日射の極大期と海面水温時間変化率のそれとの位相差が比較的小さかったが,本州南方や東シナ海では日射が極大を迎えるよりもかなり早く海面水温が頭打ち傾向になることが分かった.これは,海面上層の水温場の加熱過程や,それにおいて日射の果たす役割が,同じ日本近海でも海域によって異なることを意味する. 一方,熱帯域では,日射は顕著な年変化をするものの,中緯度と較べて海面水温の季節変化は顕著ではなく,むしろ季節内変動や経年変動が卓越することが確認された.また,季節変動のスケールでは,海面水温時間変化率よりも海面水温そのもののほうが日射と相関が高いことが確かめられた.このことは,熱帯域では海面上層の水温変動に寄与する日射の役割が相対的に低いこと,そして日射はむしろ海面水温に対して従属的であることを意味している.対照的に,ENSO現象のなかでも重要な役割を果たすと考えられている季節内変動の時間スケールでは,日射と相関の高い海面水温変動とそうでないものがあることが見出された.これは,この同じ時間スケールの現象のなかに,鉛直一次元的な変動と水平過程が効くものが混在していたことを意味する.
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