Research Abstract |
脊柱管狭窄症によって,保存的治療に抵抗する難治性腰下肢痛を有し,同意の得られた症例に硬膜外腔鏡を行い,その治療経過を観察した.また,硬膜外腔鏡施行中の灌流液を採取し,サイトカイン値を測定した.本研究での保存的治療の内容は,硬膜外ブロック,神経根ブロック,鎮痛薬の内服とした. 硬膜外腔鏡の方法は,(1)仙骨裂孔よりイントロデューサを硬膜外腔に挿入し,(2)あらかじめ細径内視鏡をセットしたガイドカテーテルをイントロデューサを通して硬膜外腔に挿入し,(3)ガイドカテーテルから生理食塩水を注入しながら,硬膜外腔,神経根,ヘルニアの所見を確認し,潅流,洗浄,癒着剥離を内視鏡下で行った.必要に応じてX線透視,造影剤を使用した.終了時に硬膜外造影によって責任神経根が造影されることを確認し,1%リドカイン8mlとデキサメタゾン4mgを硬膜外腔に投与した. 硬膜外腔鏡の所見は,狭窄した椎間高位で比較的血流の少ない結合組織が認められ,隣接椎間高位ではうっ血を伴う結合組織が認められた.治療前,治療後1週間,4週間,8週間,12週間の下肢痛のVASの平均は,それぞれ80,11,12,16,25,であった.腰痛については,それぞれ70,12,15,17,22であった.内視鏡による永続的神経障害などの重篤な合併症は認められなかった.硬膜外腔鏡の後の経過観察中に観血的治療を受けた症例はなかった.馬尾症状を示す症例の一部において,硬膜外腔鏡によって軽快した症状が再発した.硬膜外腔鏡の有効性が持続した群と再発を認めた群における灌流液中のサイトカイン値には有意差が認められなかった. 硬膜外腔鏡の特長は,(1)硬膜外腔の肉眼的観察所見が得られること,(2)侵襲度の低い治療法であること,(3)潅流,洗浄による疼痛物質の希釈,癒着剥離による疼痛改善,(4)投与された薬液の広がりの拡大が期待できることである.硬膜外腔鏡は,脊柱管狭窄症による難治性腰下肢痛の有力な治療法の一つになる可能性がある.
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