Research Abstract |
本研究では,エナメル質人工初期齲蝕病巣のアパタイトの結晶性を深度別に評価するために,牛歯エナメル質を脱灰および再石灰化させることにより人工初期齲蝕病巣を作成し,これを断層別にフーリエ変換赤外分光法(FT-IR分光法)にてイオン基の状態分析を行った. 方法として,牛歯エナメル質よりエナメルブロックを作製し,健全群,脱灰群,フッ素イオン不含有(F-)再石灰化群,1ppmフッ素イオン含有(F+)再石灰化群の4群にわけて処理した.なお,新鮮なエナメル質を研磨紙にて露出させ,この面を処理面とした.健全群は処理せず,脱灰群は0.1M乳酸ゲルにて3週間脱灰処理し,再石灰化群は0.1M乳酸ゲルにて3週間脱灰後,8日間それぞれの再石灰化液にて処理した.脱灰あるいは脱灰・再石灰化終了後,各試料のエナメル質最表層の状態をFT-IR装置Spectrum Oneにより分析した.さらに試料の厚さを高精度形状測定変位計で確認しながら表層を研磨し,断層別(深さ10,20,50,100,150,200μm)に新鮮エナメル質面を露出させて,これらをFT-IR装置により分析した.測定方法は拡散反射法とした. その結果,再石灰化両群では,人工初期齲蝕病巣部の表層ほど,再石灰化によって炭酸基が除去されていることを確認した.炭酸基の除去はHApの結晶性の向上に繋がることから,再石灰化によって病巣部表層は深層よりもエナメル質の結晶性が向上していると思われる.特に,F(+)再石灰化群の病巣部最表層では炭酸基が認められなかった.このことは病巣部最表層におけるエナメル質の結晶性の向上が著しいためと考えられる. しかし,フッ素イオンによる炭酸基の変化を病巣部表層下まで分析すると,炭酸基の除去は深さ10数μmまでであった.つまり,再石灰化にフッ素イオンが加わることによって,病巣部表層10数μmまでのエナメル質の結晶性が著明に向上すると考えられる. なお,現在,X線回析法にて,病巣部の状態を断層別に分析している途中である.
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