Research Abstract |
通常,把握動作を行う際,無自覚的に対象の大きさを事前に知覚して,指の開きを制御していると考えられる.しかし,対象が,指を最大限に開いても把握できない大きさであると,把握動作は開始されず,他の運動が遂行される.その際,対象が把握可能であるか,不可能であるかの自覚的な知覚的判断がなされていると考えられる. この自覚的な判断を行わなくてはならない対象を把握する時,その把握対象がMuller-Lyer錯視錯視事態(角柱の両端に外向あるいは内向の矢羽根を付加する)で提示されると,視覚的には,角柱の大きさが実際よりも大きく見えたり,小さく見えたりする錯視現象が現れることが知られている. このような錯視事態で,実際に把握動作を行わずに,対象の大きさの判断ではなく,行為の遂行可能性の判断を求める実験を行った.その結果,通常の事態における把握可能性の判断は,被験者の手の大きさ(指の最大の開き)を基準として行われていることが確かめられ,この判断に錯視の影響が見られた.この錯視の影響は,対象の大きさが錯視により大きく見えた場合,実際に把握できる対象でも把握が不可能であると判断するというのもであった.また,対象が錯視により小さく見える場合では,実際には把握不可能であるにもかかわらず,把握が可能であると判断した.このように,把握可能か不可能かの臨界点付近の大きさの対象では,把握可能性の判断に錯視の影響が見られたことから,この判断には,動作開始の判断のための自覚的な対象知覚系と,運動制御のための無自覚的な対象知覚系の両方が関与することが示唆された.次年度は,このような錯視事態において,実際に,遂行される把握動作の分析を行い,自覚的な対象知覚系と無自覚的な対象知覚系の関わり方について検討を加える.
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