Research Abstract |
20〜80歳代の男女146名(男性74名,女性72名)を対象として,近年開発された上腕動脈血管開口伝播速度(Opening Velocity : OV)と,従来から用いられている大動脈脈波速度(Arterial Pulse Wave Velocity : APWV)を測定して両者の比較を行った。上腕動脈の硬化度を表すOVは,比較的簡単に測定ができ,血圧への依存性も低いので,非侵襲的な動脈硬化の診断法の1つとして有用であり、この値が低い程,硬化度が高い事を示す。一方,大動脈硬化度を示すAPWVは血圧に依存するため,最小血圧80mmHgで補正した大動脈脈波速度指数(APWVI)で表し,OVとは逆に,この値が高い程,硬化度が高い事を示す。 OVは男女とも加齢とともに有意に低下した(男性:r=-0.711,p<0.0001;女性:r=-0.627,p<0.0001)。一方、APWVIは男女とも加齢とともに有意に上昇した(男性:r=0.778,P<0.0001;女性:r=0.572,P<0.0001)。女性におけるOVとAPWVIは,高齢者になるほど,個人間の変動が著しい傾向にあった。また、OVとAPWVIの間には,男性では有意な負の相関関係が認められたが(r=-0.556,p<0.0001),女性では明らかな関係が認められず(r=-0.227,p=0.0547),特に高齢者での不一致が大きい傾向にあった。女性を閉経の有無で有経者(有経群:n=18)と閉経者(閉経群:n=54)の2群に分けると、有経群ではOVと年齢(r=-0.740,p<0.001),APWVIと年齢(r=0.882,p<0.0001),OVとAPWVI(r=-0.630,pく0.01)の間において有意な相関関係が認められた。一方、閉経群では、APWVIと年齢(r=0.304,p<0.05)を除いて,OVと年齢(r=-0.194,P=0.160),OVとAPWVI(r=-0.194,P=0.160)の間においては有意な相関関係はみられなかった。 上腕動脈および大動脈とも高齢者ほど硬化度が高くなることが示唆された。しかし,OVとAPWVIの値は,高齢になる程,特に女性において,変動が大きく動脈硬化度の個人差が大きいことが示唆された。また,高齢の女性ではOV値とAPWVI値の相関が低いことから,閉経以降では,動脈の部位により硬化の進行が一様でなく,個人差が大きいことが示唆された。さらには,OVの測定において,若年者に比べて高齢者,男性に比べて女性の方が測定器の自動認識率が低くなり,上腕部の形態の違い,例えば脂肪の沈着が多いなどの理由により測定の精度自体が悪くなった可能性も考えられる。次年度は,今回得られた個人差について,今後運動等の生活習慣や動脈硬化危険因子などと関連づけて検討する必要があり,あわせて測定の精度をさらに高めるシステムの開発も必要と思われた。
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