Research Abstract |
本研究では,数学の文化史の学校数学への導入の理論的考察,及び具体的な実践例について主に三つの観点から考察を行った。以下,具体的な研究成果について記す。 1.文化財・文化伝承の数学的分析(洛中洛外図) 洛中洛外図は,主に16〜17世紀頃に制作された絵画であり,大画面の屏風絵と扇子状の扇面が有名である。これらの絵画を対象に,画法の特徴を数学的立場から分析し,絵画の特徴を検討した。その結果,屏風では,画面の上下の位置によって人物の大きさや建物の奥行きを示す稜線の角度を変更しており,斜投影法を基調としつつも数学的遠近法が活用されていることが明らかになった。また,扇面については,画像をコンピュータに取り込み,独自に開発したプログラムによって画面を長方形に変換すると,その中に描かれた図は斜投影法を基調に描かれていることが明らかになった。 2.空間認識についての研究(描画,平面における運動) 小学校5年生の描画を対象に,奥行きの表現における描画の特徴について検討した結果,事物の重なり,曲線と直線の積極的な組み合わせ,色の濃淡による空気遠近法の活用等の工夫が見られた。 また,近赤外分光法測定装置を用いて,大学生を対象に平面における運動の認知特性を脳生理学的側面から分析した。その結果,課題遂行時における透明シートの活用の有無によって脳のHbの変化量が異なっており,両者の試行が脳内では異なる活動として処理されていることが明らかになった。 3.「数学の文化史」の教育実践(中学生,日中の高校生,大学生) 上記1,2の研究成果をもとに開発した「数学の文化史」の教材を,中学生,日本と中国の高校生,及び大学生に実践した。その際,情報通信機器の積極的な活用も行った。その結果,学習者は,数学の学習はもとより,数学の背景となる文化や彼らの身近な生活と数学の結びつきを強く感じるようになった。
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