2003 Fiscal Year Annual Research Report
中国近代における身体についての思想文化のジェンダー論による分析
Project/Area Number |
13837006
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Research Institution | HITOTSUBASHI UNIVERSITY |
Principal Investigator |
坂元 ひろ子 一橋大学, 大学院・社会学研究科, 教授 (30205778)
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Keywords | ジェンダー / 身体 / 優生思想 / 纏足 / オリエンタリズム / 民族主義 / 女性解放 / 中国近代 |
Research Abstract |
本研究では、成果『中国民族主義の神話:人種・身体・ジェンダー』において示したように、国民国家形成期にあって戊戌変法期までの宣教師や中国士大夫主導から辛亥革命・五四新文化運動への女性参加による主体化を通して、女性の新国民としての再編がすすむとともに、生殖主体・「国民の母」としての女性の身体もジェンダー化されながら国民化される様相を示し、中国近現代思想文化史のジェンダー化への基礎的な試みをおこなった。 ことに身体化においては、進化論の申し子ともいうべき、19世紀末から世界的に急速に広まった優生思想がほぼ同時代的に中国でも受容されたことに注目した。「保国・保種」という民族主義の観点から「人種改良」が日本などと同様、議論され、アジア規模でも優生学的な思想連鎖を見出しうることを指摘したが、それにとどまらない問題を見出した。多産をよしとする儒教的家父長制度批判・女性の身体保護・女性解放への、当時としてはほとんど唯一の有効な思想としても、優生学は産児制限とともに求められたのである。 さらには、優生学的観点もその批判の仕上げとして動員されることになった近代中国女性懸案の纏足が廃止されるプロセスを追うことで、批判する側のオリエンタリズム、社会進化論による文明・人種差別論的な傾向を指摘しつつ、視覚的な資料もとりいれて、中国女性の心身に即した分析を、初めてなしえた。纏足問題をとりあげることで、女性たちが自ら丹青して華やかな刺繍を施した纏足靴におそらく自身の身心の痛みも、未来の幸福への期待もこめたジェンダー・アイデンティティの確認作業がみてとれ、異教徒の野蛮な風習とみた欧米の宣教師や近代医学の衛生的観点を出なかった医師や、それらを内在化して中国の「遅れ」を女性におしつけようとした男性改革者とは明らかに異なり、女性の立場によっても異なった多声を聞きだすことになった。この多声の追求は今後の課題でもある。
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Research Products
(6 results)
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[Publications] 坂元ひろ子: "「東アジアとアジアと」"共編『アジア新世紀8 構想』岩波書店. 223-231 (2003)
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[Publications] 坂元ひろ子: "中国史上の人種概念をめぐって"竹澤泰子編『人種概念の普遍性を問う』人文書院(5月刊). 23 (2004)
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[Publications] Sakamoto, Hiroko: "The Relationship Between National Identity Formation and Gender in Liang Qichao"The Role of Japan in Liang Qichao's introdctioon of Modern Western Civilization to China J. Fogel ed., University or y of California, Berkeley (4月刊). (2004)
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[Publications] Sakamoto, Hiroko: "The Cult of "Love and Eugenics" in May Fourth Movement Discourse"Positions, Duke University Press(7月刊). 12巻2号(未定). (2004)
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[Publications] 坂元ひろ子: "書評『初期中国共産党群像--トロツキスト鄭超麟回憶録』1・2(長堀等訳 東洋文庫)"『中国図書』内山書店. 15巻7号. 2-3 (2003)
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[Publications] 坂元ひろ子: "『中国民族主義の神話:人種・身体・ジェンダー』"岩波書店. 268 (2004)