2003 Fiscal Year Annual Research Report
海洋環境への適応と生物時計の多様性:潮汐時計による生殖リズム発現の分子機構
Project/Area Number |
13839011
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Research Institution | OKAYAMA UNIVERSITY |
Principal Investigator |
三枝 誠行 岡山大学, 大学院・自然科学研究科, 助教授 (80135962)
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Keywords | アカテガニ / ゾエア幼生の孵化 / 孵化過程 / 孵化過程誘導物質 / 胚の循環水 / 後鰓室 / 概潮汐時計 / 単離と化学構造 |
Research Abstract |
本研究は,潮汐リズム発現の鍵物質である「孵化過程誘導物質」(HPIS)の単離および化学構造の解析を行うと同時に、この物質による孵化過程誘導の分子機構の解明をめざした。 アカテガニ幼生の放出は夜間の満潮時に行われるが、その直前に孵化が起こる。孵化は胚に備わる約50時間の孵化過程を経過した後でいっせいに起こる。孵化過程は雌親の持つ「潮汐時計」によって開始されるが、実際にどのような物質が雌親から放出されて孵化過程が誘導されるのかわかっていなかった。 昨年度の研究によって、孵化過程誘導物質(HPIS)は、胚の循環水に含まれているのは間違いないことがわかった。さらに研究を進めてゆくうち、私たちはカニの抱卵の維持のためには非常に巧妙なシステムがあることを発見した。カニ類の抱卵数は著しく多い。このように多くの胚を胸部と腹部に囲まれた狭いスペースに入れると、胚への酸素供給量が減り、胚は酸欠で死亡する。それを回避するため、カニ類には鰓(エラ)からincubation chamberに水の通過口(穴)が備わっている。カニは親自体の呼吸のため第一顎脚の動きにより、鰓に水を送っている。実はその水の一部が鰓のすぐ後ろに続く後鰓室(postbranchial chamber)を通ってincubation chamberに達しているのである。孵化過程誘導物質は雌親の鰓から後鰓室までのどこかの組織で作られ、蓄えられ、夜間の満潮時刻に分泌されるのであろう。現在の段階では、後鰓室の中の皮膚の襞(pericardial sacと呼ばれているが、心臓とは無関係と思われる)で作られ、後鰓室への放出が潮汐時計によってコントロールされていると考えれば、今までの多くの謎が解けるところまでわかってきた。
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Research Products
(7 results)
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[Publications] Saigusa, M., T.Okochi, S.Ikei: "The tidal rhythm of invertebrate assemblage in the subtropical estuary・・・・."Acta Oecologia. 24. 193-206 (2003)
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[Publications] Ikeda, H., Y.Hirano, M.Saigusa: "A pair of rosette glands in the embryo and zoea larva of an estuarine crab・・・・."Journal of Morphology. 259. 55-68 (2004)
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[Publications] Gusev.O.et al.: "Purification and cDNA cloning of the ovigerous-hair stripping substance・・・・."Journal of Experimental Biology. 207. 621-632 (2004)
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[Publications] 東裕行, 三枝誠行, 福田宏: "西表島船浦湾におけるマングローブ干潟の堆積環境-堆積物と生物遺骸の保存状況について"岡山大学地球科学雑誌. 9. 9-18 (2003)
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[Publications] Saigusa, M., T.Fujita: "The circatidal rhythm of a subtidal cumacean,・・・・."Proceedings II of the International Conference of "Geometrization of Physics V. 305-317 (2003)
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[Publications] 平野優理子: "カニはどのようにして進化したか?"ウミウシ通信. 41. 10-12 (2003)
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[Publications] 三枝誠行: "生態学辞典(分担)"共立出版. (2003)