2002 Fiscal Year Annual Research Report
ブラジル多文化社会における日本移民の老いとエスニシティに関する文化人類学的考察
Project/Area Number |
13871043
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Research Institution | Heian Jogakuin(St.Agnes')University |
Principal Investigator |
金本 伊津子 平安女学院大学, 現代文化学部, 助教授 (60280020)
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Keywords | 老い / エスニシティ / 文化変容 / ブラジル / 日系人 / 移民 / 高齢化 / 国際情報交換 |
Research Abstract |
ブラジル連邦共和国におけるフィールドワーク(平成14年7月31日〜9月20日)を行い、平成13年・14年をとおして60名の日系老人のオーラル・ライフ・ヒストリーの収集を行った。平成14年度のフィールド・サイトは、サンパウロ都市部以外の日系人口の集中している以下の7地域が選ばれた。[サンパウロ州(スザノ/グァタパラ) リオ・デ・ジャネイロ州(リオ・デ・ジャネイロ/フンシャール) エスピリート・サント州(ヴィトーリア) パラナ州(ロンドリーナ/マリンガ) パラ州(トメアス/ベレン)] (1)家族と支援ネットワーク:サンパウロ州以外においては、日系老人福祉施設が整っておらず、家族と同居するケースが多く見受けられた。家族との繋がりが都市部と比べると強いといえよう。しかしながら、現在は若・壮年層の都市部及び日本へのデカセギによる流出・定住化に伴い、地方の日系コロニアにおける介護者の不在が大きな問題として浮かび上がってきている。地方の移住地においては、介護の問題のみならず、その存続すら危ぶまれている状況でもある。 (2)経済状況にみる老い:日本国籍を保持したままの日系老人たちの中には、日本からの年金で生活を支えているものがおり、年金需給年齢に達することにより、日本との関係性が急激に変化するケースが認められた。例えば、リオ・デ・ジャネイロ州にあるフンシャール移住地は、そこに居住する過半数の家族が北海道の出身者で構成されている。この移住地には、炭坑離職者が多く、ブラジルで日系老人が受給できる年金平均額の数十倍にあたる炭坑離職者用の年金を日本から受給しており、老いて初めて出身国との繋がりが移住地全体において活性化するケースもあった。 (3)オーラル・ヒストリーにみる老い:文化地方においては、異文化で老いを対峙するために日本文化の環境を提供する日系コロニアの団体に寄せる信頼はとても強く、点在するお年よりたちを繋げる役割をはたしている。したがって敬老の日などの催し物や老人会への興味や参加が非常に高い。エスニック・グループに特有の記憶としてのエスニック・リメンバランス(具体的には、食・言葉や言語表現・歌・踊りなど)が日系コロニアの主導により老いの文化資源として活用されている様が観察された。
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