Research Abstract |
確率的外力項(stochastic forcing term)を持つKorteweg-de Vries方程式は,流体力学やプラズマ物理に現れるモデル方程式として,物理や工学の研究者によって数値シミュレーションが盛んに行われている.しかし,偏微分方程式論の立場からこの問題を見ると,確率的外力項は強い特異性を持った摂動項として働く.このため,確率的外力項を持つKorteweg-de Vries方程式の初期値問題を解くことは,数学的に見ても非常に興味深い問題である.実数直線全体でKdV方程式を考える場合は,Katoの平滑化作用(Kato's smoothing effect)により,確率項から現れる特異性を処理することができる.(これは,de Bouard, Debussche and Tsutsumiによってなされた.)一方,周期境界条件で考えた場合は,このような平滑化作用は期待できないので,新たな理論が必要である.特に,多くの数値シミュレーションは,周期境界条件のもとで行われているので,離散化する前の元の問題が本当に解を持つのかどうかを理論的に証明することは,現在行われている数値シミュレーションを理論的に補強することにもなる. 物理や工学の立場からもっとも興味があるノイズはホワイトノイズであり,これはブラウン運動を微分したものに相当する.今回は,このホワイトノイズを確率的外力項として持つKdV方程式の初期値問題を解くことを目標とした.このような特異な摂動を扱う場合は,解の属する関数空間を広く取る必要がある.そのためには,Bourgainによって開発されたフーリエ制限法が有効であると予想される.しかし,フーリエ制限法を適用するためには,外力項が時間変数に関してある程度滑らかでなければならない.今回は,ブラウン運動の各軌道がどの程度の滑らかさを持つか,特にどのような関数空間に属するかを調べた.具体的には,ブラウン運動の各軌道は,ある種のBesov空間に属することを,確率論と調和解析の手法を用いて証明した,これを用いて,KdV方程式を解くことは,次年度以降の研究課題である.
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