Research Abstract |
本研究では歯根膜感覚情報の違いが高次脳機能にどのような影響を及ぼすかについて,行動学的,組織学的および薬理学的手法を利用し検討することを目的とした. 平成13年度では,wistar系雄性ラットを用い,歯根膜感覚を喪失させた臼歯喪失群と歯根膜感覚を残存させた臼歯歯冠切除群(各10匹),および非処置の対照群(10匹)を設定し,抜歯および歯冠切除後1,3,7週目に放射状迷路課題における遅延試行試験を時系列的に行った.その結果,対照群に比較した実験2群は遅延試行試験の遂行阻害に違いを認め,臼歯喪失群では課題遂行に対する阻害効果が明らかに歯冠切除群より大きく,記憶の保持や再生過程に対して逆向性の影響を受けていると考えられた.一方,臼歯歯冠切除群では情報の獲得過程に対する順向性の障害を引き起こしていることが推察された. 次年度に予定していた薬理学的検討については,行動学的結果との関連を詳細に裏付けるために本年度に行うこととした,迷路実験終了後,大脳皮質,海馬,線条体の神経伝達物質のアセチルコリン(ACh),ノルアドレナリン(NE),ドーパミン(DA),セロトニン(5-HT),および代謝産物の7リン(Ch),ドーパック(DOPAC),5-ヒドロキシインドール酢酸(5-HIAA)の含有量の測定を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて行った.その結果,臼歯歯冠切除は偉海馬においてのみDA含有量の低下を認めたのに対し,臼歯喪失群は海馬および線条体のDA含有量に低下を認めた.また,行動学的実験における成績と神経伝達物質の含有量との相関から,線条体において臼歯歯冠切除群はACh含有量に相関を認め,臼歯喪失群はAChおよびDA含有量に相関を認めた.以上より,高次脳機能に及ぼす影響は臼歯喪失群と臼歯歯冠切除群で異なり,その影響は臼歯喪失群で顕著であることが示唆された.
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