Research Abstract |
離散数学とは有限・離散的な組合せ的構造を対象とする数学で,情報科学の基礎をなす数学の1つとして注目されている.しかし,初等・中等教育における現行のカリキュラムにはほとんど顔を出さない.そこで,離散数学を学校数学に導入することを念頭に,離散数学の特性を分析し,それを活かした教材の収集を行い,離散数学的観点によるカリキュラムの指導導理念の創出を目指した.その結果,以下の事柄が明らかになった. 現在の学校数学を構成する要素はおおむね「数量」と「図形」に限定されている.一方,離散数学では,「構造」が考察の対象になる問題が多い.それを系統的に分類すると,「数え上げ」,「存在問題」,「最適化」に大別され,いずれも,問題を適切なモデルで表現し,基本的な原理を根拠に簡単な論証を行うというスタイルの問題解決が行われる.特に,論証においては,1対1対応の考え方,鳩ノ巣原理,整数の偶奇性,数学的帰納法など,基本的ではあるが明示的に指導されることのなかった考え方が利用されている. 以上のことから,離散数学を標語的に「絵を描いて,簡単な計算をして,言葉で論証する数学」と捉えることができる.この3段階の問題解決は人問の.自然な認知プロセスに対応しているように思われる.これを前提とすれば,離散数学的観点で学校数学のカリキュラムを再構成することで,高学年において形式運用とし形骸化しがちだった学校数学を,人間に優しい数学に変貌させることができると期待される. とはいえ,具体的な絵を描いて理解している段階からそれをもとに一般的な状況を理解できるようになる段階に移行することは,児童にとって簡単なことではない.特に,小学佼高学年においては,小学校4年生から5年生にかけて,一般化に対する理解度が大きく変化することが明らかになった.この調査結果に加え,上述の指導理念や離散数学的な問題事例などを報告書として冊子にまとめた.
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