Research Abstract |
平成15年度は,前年度に引き続き,文字論・文字史に関する貴重文献の収集,アジア諸文字の文献・碑文・写本・刊本等の現地調査,それら資料のデジタル化,オンラインリソースの構築,及びオープンタイプフォントの開発等を行った。 研究成果の公表の一環として,国際シンポジウム「インド系文字:過去と未来」を2003年12月17日〜12月19日に東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所で開催した。このシンポジウムは,インド系諸文字について,字体の歴史的変遷,文字の構成要素に関する検討,文字体系の分析と統合,及び文字機能の変化等を総合的に取り扱ったもので,国内外の多くの研究者が出席し,好評を博した。 研究成果の公表としては,この他に,ワークショップの開催,GICAS Online Research Bibliographyページの開設を行った。また「初期録音資料に基づく音韻・翻刻データベース」(PHONARC)の探索により発見された現存最古日本語音声録音・翻刻記録(1900年7月録音)が,2003年10月16日〜17日に,各メディアにて放送・報道された。 本研究の研究進行状況及び研究成果の詳細は,本COE拠点ウェブサイトhttp//www.gicas.jp/を参照されたい。 本研究の基幹をなす各プロジェクトの本年度の活動の概要は,次の通りである。 1.「字形と字体の編年研究」として,主として次の活動を行った。 ・「内陸アジア文字資料オンラインリソース」構築のために,19世紀初頭にロシア領で出版されたチュルク語聖書等の貴重書の購入,チュルク語写本・契約文書の調査などの資料収集に努め,これらの文献・調査報告の公開のためにウェブサイトを開設したほか,ワークショップ「カシュガルとフェルガナ-19-20世紀中央アジア地域社会の文字資料」の開催(2003年1月10日),ユニコードを採用した「多文字文献データベース」の構築などを行った。 ・ペルシア語文化圏の文字資料について,ウズベキスタン、ブハラの博物館,タシュケント東洋学研究所などでの協定の締結に基づく写本撮影,イラン(テヘラン)の議会図書館の写本撮影,パキスタン,カラチでの写本撮影交渉などを行い,資料収集に努めた。 ・漢字文献では,故藤枝晃教授撮影敦煌文献の電子化と注釈附与に基づく画像データベース構築を進めたほか,東京大学小倉文庫所蔵朝鮮語文献中の真言・陀羅尼文献を中心に画像電子化を行い,その翻刻の電子テキストに基づいて漢字音検索システムを構築中である。 2.「文字の構造と成分の解析」及び「文字のデジタル処理としての統合」研究のため,ラオス語辞典データの分析に基づいてラオス文字の構造を明らかにし,オープンタイプフォントを開発するための仕様を策定した。また,クメール語碑文の画像データとG.セデスによる読みを対照するデータベースを作成した。さらに,東南アジアの文字処理と組み版に関する業界対象の依頼講演に応ずるなど,研究成果の社会還元に努めた。 3.「文字による聖典と注釈のコーパス構築」研究 「古代チベット語文献オンライン」など,主としてチベット語の原本調査・貴重書収集に基づくオンライン・リソースの充実に努めた。 4.「文字文化の社会的研究」として,主として次の活動を行った。 ・「小児錦」プロジェクト主催・ワークショップ(第1回)「周縁アラビア文字文化の世界-規範と拡張-」を開催し(2003年7月12日),パンジャーブ語,マレー語,スペイン語,漢語,現代ウイグル語及びサラール語の事例を取り上げ,各言語における(1)言語概要,(2)アラビア文字の受容に関する歴史的経緯,(3)字母概要,(4)正書法,(4)書体,(5)文字の導入がその言語に与えた影響の5つをパラメータとして設定し,検討を行った。 ・固有の文字をもたない言語の表記に関する諸問題の解決を支援するオンライン・リソースの構築を引き続き行った。 ・Linguistic Survey of India及びSantal Dictionaryのオンライン利用のための作業を行った。 ・タイ国内のランナータイ文字などの地方文字について現地調査を行い,資料をデジタル化した。 尚,収集中の貴重文献の保存のために,湿度調整機能を持つ貴重書架を新設した。
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