2013 Fiscal Year Annual Research Report
花粉媒介行動の脳の分子神経基盤とその生態系への影響の解明
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13F03074
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
久保 健雄 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10201469)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
WANG Mu-Yun 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2013-04-26 – 2016-03-31
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Keywords | マルハナバチ / 採餌戦略 / 報酬学習 / 忌避学習 / メダカ / 分割した注意 / 個体差 / 量的形質遺伝子座解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)マルハナバチの採餌戦略に関する研究 マルハナミツバチが訪れる花にはしばしば天敵(カニグモ)が潜む。しかしながら、マルハナバチがどのように天敵を避け、効率よく訪花するのかは不明であった。これまでに、WANG博士はカニグモを模倣した昆虫ロボットを作製し、マルハナバチが採餌行動の際に、このロボットを外敵として視覚記憶する行動実験系を構築した[Behavior. Ecol. Sociobiol. (2010)]。本研究では、この実験系を用いて外敵に遭遇した記憶がマルハナバチの採餌戦略に影響を与えること、さらにマルハナバチは複数の餌場における花蜜の質と外敵の出現頻度を記憶し、二つの情報を統合して効率の良い採餌戦略を立てることを示した。その結果、マルハナバチの採餌戦略には個体差(=「注意深い(careful)個体」と「衝動的な(impulsive)個体」)があることを発見した。注意深い個体は時間をかけて蜜源を探索する結果、花蜜量が多く、外敵が少ない蜜源を正確に選択できる。一方で、衝動的な個体は短時間で蜜源を選択するが、質の高い蜜源を正確に選択することはできなかった(Speed-accuracy tradeoffs)。 (2)メダカの採餌戦略に関する研究 当研究室ではメダカの視覚に基づく報酬学習系を確立している。メダカに動画提示と同時に餌を与えると、動画提示だけで動画の方に素早く移動するようになる [Ochiai et al., PLoS ONE (2013)]。本年度はメダカの採餌戦略を調べる目的で、報酬と忌避記憶の両方を介した採餌実験系を確立した。これにより餌と外敵という二つの相反する情報を統合した脊椎動物の採餌戦略を研究室内で解析することが初めて可能になった。その結果、メダカの採餌戦略でも、マルハナバチと同様に「注意深い個体」と「衝動的な個体」という個体差があることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
WANG博士の研究項目は、以下の4つである。(1) 採餌の障害となる外敵(カニグモ)がいる場合のマルハナバチの採餌戦略を解析する。(2)マルハナバチの個体毎に採餌戦略に差(行動個性)があるかを検定し、生態系(訪花植物)との相互作用様式をシミュレーションにより予測する。(3) 採餌の障害となる外敵がいる場合のメダカの採餌戦略を解析し、分子遺伝学的手法(QTL解析)を用いて、メダカの採餌戦略に影響を与える遺伝的基盤を解析する。(4) マルハナバチの採餌行動における視覚(外敵)情報処理過程をモデル化して、(2)のシミュレーションに組み込む。さらにメダカにおいても同様の解析を行って、両者の共通点を探る。 このうち、(1)のマルハナバチの採餌戦略に関する研究成果はAnimal Behaviour誌に発表された。このように動物が二つの相反する対象(餌と外敵)を同時に注目して行動選択する能力は‘Divided attention’と定義されるが、これは‘Divided attention’を昆虫で見いだした初めての例であり、高い学術的価値をもつ。 さらにメダカの採餌戦略を調べる目的で、報酬及び忌避記憶の両方を介した採餌実験系の確立に取り組み、これに成功した。これにより食べ物と外敵という二つの情報を統合した脊椎動物の採餌戦略を世界に先駆けて研究室内で解析できるようになった。その結果、メダカの採餌戦略においても、マルハナバチと同様に「注意深い個体」と「衝動的な個体」という個体差があることを見出した。このように、WANG博士の研究課題は新規性の高い発見を伴いつつ(1)と(2)の課題を終え、現在は(3)の課題に取りかかろうとしている段階である。従って、概ね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) メダカの‘Divided attention’に基づく採餌戦略の解析 二つの視認対象[餌(=報酬)と外敵]の両方が存在する環境における、メダカの採餌戦略を調べるために、餌と外敵が存在する際のメダカの各個体の位置情報の時系列データをトラッキングシステムを用いて収集する。メダカの採餌戦略をマルハナバチと比較することで、両者の採餌戦略の共通性と多様性を抽出する。 (2)メダカの採餌戦略における動物個性の解析 これまでにWANG博士は、個々のマルハナバチの‘Divided attention’に基づく採餌戦略には個体差があり、「注意深い(careful)」個体」と「衝動的な(impulsive)個体」が存在することを見出している。さらに興味深いことに、メダカの‘Divided attention’に基づく採餌戦略においても同様に「注意深い(careful)」個体」と「衝動的な(impulsive)個体」が見いだされることから、両者の行動基盤に共通なメカニズムが存在する可能性が考えられた。 本年度は新たに確立したメダカの採餌行動の実験系を用いて、「量的形質遺伝子座(QTL)解析」により、採餌戦略の個体差を産み出す遺伝的背景を調べる。具体的には多数のメダカ近交系を用いて行動実験を行い、5種類の近交系間で採餌戦略が異なっているか否かを検定する。採餌戦略に最も大きな差異が見られた2系統を用いてQTL解析を行い、差異を産み出す原因遺伝子を探索する。
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Research Products
(4 results)
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[Presentation] ‘Face recognition’ in medaka?2014
Author(s)
Mu-Yun Wang, Teruhiro Okuyama, Takeo Kubo and Hideaki Takeuchi
Organizer
The 8th NIBB International Practical Course
Place of Presentation
Nagasaki, Japan
Year and Date
2014-09-22 – 2014-09-30
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