2013 Fiscal Year Annual Research Report
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13J00035
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
金子 奈美 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 自己翻訳 / バスク文学 / バイリンガル作家 / 少数言語の文学 / 翻訳研究 / スペイン語圏文学 / 国際情報交換 / スペイン(バスク自治州) |
Research Abstract |
平成25年度の研究課題は、バスク語という少数言語で執筆し、スペイン語に自作を翻訳しているスペイン・バスク地方の作家ベルナルド・アチャガの1970~1980年代の作品を分析することであった。作家が自分自身の作品を翻訳する行為、すなわち「自己翻訳」にアチャガが本格的に着手するのは1989年以降のことであるが、それ以前の彼のテクストには既に、創作に用いる言語の決定とバイリンガリズムをめぐる問題(バスク語かスペイン語か)、バスク語作家にとっての文学的伝統(書かれた文学の歴史が短いバスク語の伝統、スペイン文学やヨーロッパ文学の伝統、ラテンアメリカをはじめとした世界の周縁的文学)、そして少数言語で文学を書く困難についてのさまざまな思索を見てとることができる。 この点について、当時のバスク地方が置かれた特殊な社会・文化状況(スペインの独裁体制から民主制への移行が背景にある)を踏まえながら詳細に論じたのが、雑誌『言語・地域文化研究』掲載の論文である。この論文で、アチャガがバスク語で創作を始めた1970年代から80年代にかけてのテクストの特徴と、少数言語で執筆するバイリンガル作家としてのアチャガの言語意識、およびそれにもとづいた文学観の形成について、新たな視点から解釈を加えることができたと考えている。 この研究の意義は、バスク語圏の外ではほとんど知られていないがバスク文学史においては決定的な重要性をもつアチャガの初期作品を取り上げ、バスクの複雑な言語的・文化的コンテクストを解説しながら論じた点にある。また、バスク語ネイティヴ以外でバスク語テクストに直接アクセスできる研究者は世界的にも少なく、日本でバスク文学を本格的に論じた文献はほとんど存在していないため、その意味で本研究がもつ重要性はきわめて大きい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アチャガの1970年代の作品については、9.で言及した論文でほぼ完全に綱羅することかできたが、1980年代の作品に関してはまだテクスト分析と二次資料による裏付けが不足している部分もある。しかし、平成25年9月より研究拠点としているスペインのバスク大学の研究者たちとの意見交換をつうじて、これまで気づかなかったアチャガのバスク語テクストの特徴や時代背景について多くの情報を得ることができたので、今後の研究内容に反映させていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は1990年代以降のアチャガ作品を対象に研究を継続する。そのうえでの大きな課題は、1989年以降、アチャガの二言語使用と自己翻訳のプロセスが複雑化していくため、徹底した文献調査にもとついた正確なテクスト分析を着実に遂行していくことである。また、アチャガの自己翻訳の展開にともなってバスク文学そのものも国際的な知名度を得ると同時に内的な変化を経験することになったという事実を考慮して、バスク文学において(自己)翻訳が担ってきた機能を歴史的に考証する必要性も出てくるだろう。そうした作業をつうじて、少数言語の文学と翻訳の関わりと、バスク文学のケースにおけるアチャガの自己翻訳の重要性があきらかになるはずだと考えている。
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Research Products
(2 results)