Research Abstract |
自らが運動を制御しているといった主観的な意識は, 自己身体の時空間モデル(身体図式)を参照して形成されると考えられる. 本年度は, 把持運動中の視覚フィードバック情報に着目し, 運動主体感の根幹となる身体図式の神経基盤の解明を試みた, 特に, 1)運動情報, 2)運動中の自己身体に関わる視覚情報, さらに, 3)対象または環境の視覚情報がどうのように脳内で表現されているか調べた. 具体的には, 頭頂葉のAIP野に存在する手操作運動関連ニューロンが, 運動中の自身の身体像に視覚応答を示すかどうか, また, 頭頂葉のPFG野に存在するミラーニユーロンが自己の動作に視覚応答を示すかどうか調べた. 実験には, 把持運動中のサル自身の視点から撮影した映像, 実験者の把持運動中の映像, 対象物だけの像を使用し, それらの映像をサルが注視した際, 神経細胞が応答するかどうか調べた. その結果, 対象物ではなく自身の手の動きの映像に視覚応答を示す手操作運動関連ニューロンを発見した, この一部は, 対応する運動情報も同時に符号化し, 自身の手に関する視覚フィードバック情報と統合化されていた. さらに自己の手と対象物の両方が存在する映像にしか視覚応答を示さないニューロンも発見した. これは自己の手と対象物との関係性を符号化し, 手と物体の視空間処理に関わっている可能性がある. また, 運動中の自己の手の映像に視覚応答を示すミラーニューロンを発見した, これは自己-他者に関わらず動作を視覚的に表現しており, それらと自身の運動表象とを統合化している, 計算論的なモデルや発達における連合学習過程において, 自他の視覚表象を統合化した神経基盤がモデル化されており, この神経細胞はその一端を担っていると考えられる. 以上の結果から, 頭頂葉におけるニューロンは, 自己の動作を視覚的にモニターし, 運動指令と照合することで自己の運動を認識する働きをもつことが示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では上記の視覚像提示課題やコントロール課題に加えて, 遅延把持運動課題を設定していたが, 後者の課題を実験動物に課すまでに前者の課題条件を遂行する必要があった. その間, 記録している細胞を保持し続ける必要があるが, 試行回数が多く, 後者の課題条件から十分な数の神経細胞を記録できていない. しかし, 前者の課題条件では, 2頭のサルから十分な数の神経細胞活動を記録することができ, 論文投稿の準備を進めることができた. 以上より本課題の達成度を「おおむね順調に進展している」区分に分類した.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は, 運動主体感の基盤となる運動中の自己身体表象と運動関連情報が単一神経細胞活動レベルで統合化されていることを発見した, 来年度は. 記録したデータの統計的解析, 記録領域の組織染色を行い, これらの結果をまとめ論文誌へ投稿する. さらに, 運動主体感に上記のニューロンが直接的, または間接的に関わるかどうかを調べる為に, 自己身体に関わる統合化された視覚-運動情報が脳内でどのように処理されているかを検証する必要がある. そのために遅延把持運動課題を設定している. 課題条件と母集団の選定方法を検証し, 更なる調査を行う予定である.
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