2013 Fiscal Year Annual Research Report
経路表現の二面性について-手段を表す経路と位置変化を表す経路
Project/Area Number |
13J00152
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
安原 正貴 筑波大学, 大学院人文社会科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 経路表現 / 動詞 / 手段 / 位置変化 |
Research Abstract |
動詞は文の中で中心的な役割を果たしていると考えられている。したがって、多様な振る舞いを示す動詞が本来的に持つ意味とは何かという問題は、辞書学だけでなく言語研究においても重要な意味を持つ。特に、通常は移動の意味を表さない動詞が経路表現と共起する現象は、これまで活発に議論されてきた。その一例がwhistle(口笛を鳴らす)のように音の発生を表す動詞(以下では音放出動詞と呼ぶ)である。音放出動詞は、「(その場で)口笛を吹く」という単純な音発生だけでなく、経路表現と共起して「(弾丸などが)ビューと飛んで行った」という移動の意味を表すことができる。 (1)a. John whistled, (Johnが口笛を吹いた) b. The bullet whistled through the air. (弾丸がピューと飛んで行った) 従来、経路表現が共起できるのは基本的に移動動詞だけであると考えられてきたため、(1b)の事実は、音放出動詞に移動の意味が多義的に備わっているという考え方につながった。しかしながら、この考え方は動詞の意味を複雑化することにつながるという問題点を含んでいる。 これを解決するために、本研究は動詞の意味ではなく、その動詞が生起する構造に着目する。具体的には、(1b)に生起する経路表現の二面性に着目し、移動の意味を持たないと思われる動詞が経路表現と共起した事例に関して、動詞が本来的に持つ意味を最小限に限定することを目指す。その結果、当該の動詞が関与する現象をシンプルな形で捉えなおすことが可能となる。 本研究では、手段を表す経路表現と位置変化を表す経路表現が存在し、これらは文法的に異なる振る舞いをすることを明らかにしている。手段を表す経路表現は、with a hammer(ハンマーで)のように、自由に生起できる修飾要素のような働きを持つ。したがって、本来的に移動の意味を持たない動詞であっても、このタイプの経路表現は当該の動詞と共起することができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、音の放出を表す動詞、状態変化を表す動詞、消滅を表す動詞を中心に研究を行っている。これらの動詞と共起する経路表現には手段の意味が備わっていることがすでに明らかとなっている。また、これらの動詞が表す事象と、共起する経路表現が表す事象との間の意味的な関係性に関しても理論的な定式化を行うことができた。したがって、当初の計画通りに研究が進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに明らかにした本研究の分析の妥当性を、, 多方面からの観察や分析を基にして実証し、最終的に独自の理論的説明体系の構築を目指す。近年、項と事象解釈の間の相関関係について新たな提案がなされている。従来は主語の生起と使役の解釈は一対一対応をしていると考えられてきたが、この提案では、主語と使役の解釈は独立したものであるとされる。事象に関するこの提案を本研究の分析に取り込むことにより、これまでは説明できなかった自動詞と他動詞の交替現象に対しても原理的な説明を与えることが可能になると考えられる。
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