2013 Fiscal Year Annual Research Report
日本近世における中国音楽研究-『律呂新書』を中心として-
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13J00235
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
榧木 亨 関西大学, 東アジア文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 『律呂新書』 / 朱子学 / 中村惕斎 / 楽律学 / 江戸時代 |
Research Abstract |
本年度は、江戸時代に行なわれた儒者による『律呂新書』研究を中心として、検討を行なった。本研究課題において対象となる資料は計十四点であり、年度中に全ての資料を入手することができた。これらの資料の分析についてもすでに着手しており、重要度の高い資料から順に、論文および学会発表などを通してその成果を公表している。 日本における『律呂新書』研究は朱子学者を中心として行なわれているものの、それ以外にも雅楽家や朱子学者ではない漢学者たちも研究を行なっていたことが明らかとなった。特に、雅楽家である安倍季尚が行なった『律呂新書』研究は、日本における『律呂新書』研究の基礎を構築した中村惕斎の影響を色濃く受けるものであり、その成果は江戸時代を代表する音楽書である『楽家録』に収録されている。安倍季尚の研究は、理論を研究する儒者と実践を行なう雅楽家をつなぐものであり、江戸時代に朱子学が及ぼした影響を検討する上で注目すべき事例であるといえる。 日本で展開した『律呂新書』研究の基礎を構築した人物は、京都の朱子学者である中村惕斎である。これまで、中村惕斎の『律呂新書』研究がどのように継承されていったのかについては明らかではなかったが、本年度に行なった研究の結果、中村惕斎の弟子である斎藤信斎を通して、尾張徳川藩へと継承されていったことが明らかとなった。これにより、日本における『律呂新書』研究の中心となる継承関係を明らかにすることができた。 本年度は、『律呂新書』が朱子学者を中心として受容された点に着目し、楽律制定法の中でも「気」と「楽律」を結びつける「候気術」に関する言説の分析を行なった。その結果、日本の朱子学者たちが、必ずしも「候気術」を積極的に肯定しているのではないということが明らかとなった。この点については、中国・朝鮮で行なわれた『律呂新書』研究との比較を通して、「候気術」が有する意義とその問題性について、さらに検討を加えていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に行なった研究は、江戸時代の日本で行われた『律呂新書』研究を明らかにすることを目的としており、本年度の研究を通して、ほぼその全容を明らかにすることができた。また、その成果は論文、学会発表などを通して広く公表することができた。よって、本年度に行なった研究の進捗状況は、交付申請時に記載した研究実施計画と一致するものであり、順調に進展しているものと判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、本年度に日本を対象として行なった分析結果と、日本と同様に『律呂新書』を受容した朝鮮、宋代に成立した『律呂新書』が清代まで研究された中国を対象とした分析結果とも一致するのかを中心として、検討を行なう。 次年度は朝鮮王朝で行なわれた『律呂新書』研究を明らかにすることによって、中国から伝播した『律呂新書』が、周辺諸国でどのように受容されていったのかを明らかにする。最終年度には、中国で行なわれた『律呂新書』研究を明らかにすることによって、各地で行なわれた『律呂新書』研究の様相を相対化し、同研究が果たした役割を明らかにする。
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Research Products
(8 results)