2013 Fiscal Year Annual Research Report
ペルソナ概念による主権論の読み換え:シュミットのホッブズ受容をめぐって
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13J00238
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
宋 偉男 京都大学, 大学院人間・環境学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 主権 / カール・シュミット / トマス・ホッブズ / ペルソナ / 世論 / 良心 / レトリック |
Research Abstract |
平成25年度は、国家主権(国家人格)の崩壊に関するシュミットのホッブズ読解を批判的に検討するために、二つの作業を並行して進めた。 第一に、ワイマール期にシュミットが人民主権の「政治神話」的側面を重視するにいたった動機を探った。近代市民憲法の仕会主義的な読み換えによる革命への傾向に対抗するものとして、シュミットが政治概念に真理性ではなく実践性(強度)を求めた結果が「人民の神話」へとつながったという点を、明らかにした。このことを、京都大学GCOEプログラム(『親密圏と公共圏の弁証法(仮題)』)における担当論文において、ハーバーマスの「市民的公共性」概念と対比させつつ論証した。ここから発展して、権威主義的側面を強調されることの多い主権論者シュミットによる「世論」観を、同時代の政治学との関係においてより綿密に探究することが、これからの課題となる。 第二に、このような主権と世論(良心)との緊張関係をホッブズがどう理論化したのかを、近年の思想蔓的知見をふまえながら調査した。ホッブズ的主権国家が「良心の自由」を許したことで最終的に崩壊したと見るシュミットの解釈は、現在の自由主義的解釈にまで影響が及んでいる。しかし、初期近代のレトリック的伝統に着目することによって判明するのは、ホッブズが「良心」概念そのものの改造を行なっていたことである。このことは、2013年10月27日の社会思想史学会における発表(「ホッブズ主権論に良心の余地はあるか? ――ペルソナ論との関連で」)において示された。ホッブズは、霊的レトリックを乱用する共和主義とピューリタニズムの宗教的良心の存続を許していない。ここから、ホッブズが主権の基礎を何よりもまず理性的思考習慣の教育に置いていたことが示唆される。主権者が人格=仮面(ペルソナ)を担うことの意義を、この点に即して再考する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
レトリックをめぐる主権と世論との緊張関係をテーマ化できたという点で、シュミット研究とホッブズ研究を相互参照させることで主権論におけるペルソナの役割を再考するという課題に向けて、着実な一歩を踏み出せたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度のホッブズ研究の成果を、論文の形で学会に投稿する予定である(社会思想史学会、または政治哲学研究会)。またその際、ホッブズにおけるペルソナ概念の転換を、神学的な観点をふまえてより広い視野で考察する必要がある。シュミットの主権論に関しては、同時代の政治学・社会学上の世論研究との関係をふまえながら、その特質を明らかにしていきたい。
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Research Products
(1 results)