2014 Fiscal Year Annual Research Report
ジャック・デリダの政治思想における固有性批判の研究
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13J00280
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
吉松 覚 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 哲学 / フランス思想 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度の私の研究は大きく分けて以下の二つに分けられる。 〈①デリダにおける切迫の問題〉デリダの思想は一般に、彼の思想を代表する概念の「差延」による「遅れ」の思想であるとの評価が一般的である。しかし、それは単に彼の思想が現実的な責任を回避しているというわけではなく、差延という概念によって切迫しているというデリダの発言を鑑みるに、単純な遅れとは異なる位相を孕んだものであると言えるだろう。私はこれらの文脈を踏まえてデリダの差延概念における切迫を、彼の時間論を経由した読解を試みることで、デリダが自らの思想から現実的な問題にも応答しようとしていたことを表象文化論学会での口頭発表で明らかにした。具体的には、彼の晩年の思想である「来るべきデモクラシー」の「来るべき」という語にデリダが含ませた、「いまだ来たらざる」性格と「到来しなくてはならない」性格の二重性から、遅れと切迫の関係を読解できるのではないかという仮説のもと、『法の力』における決定不可能なものの決定という問題を読解した。 〈②デリダの生命論の準備〉上述の差延の切迫というテーマは、ハイデガーにおける「死に向かう存在」とフロイトの『快感原則の彼岸』における「死への迂回路としての生」をデリダが交叉させていたことに起源を求められる。デリダがフロイトをハイデガーの哲学から精読した『絵葉書』所収の「思弁する/投機する――フロイトについて/フロイトを超えて」を再読した。 併せて、デリダが最晩年、生存のための自己破壊をあらわすのに用いた「自己免疫」概念を論じたマーティン・ヘグルンド(イェール大准教授)、パトリック・ロレッド(リヨン大学)のデリダ論を1本ずつ翻訳し、大きく示唆を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
私は平成26年度、上述の通りデリダにおける切迫というテーマ、および〈生-死〉概念を中心に研究した。差延と切迫という問題はデリダ晩年の政治思想においても重要であることは疑いを容れないし、最晩年の自己免疫論に至る生命的隠喩の系譜(それは最初期の『グラマトロジーについて』におけるサイバネティックスへの関心にもつながるかもしれない)の上にある〈生-死〉概念もまた、デリダにおける「固有性批判」のおいて、重要な位置を占めるだろう。ゆえに、現時点で拙研究には、当初の研究目的に照らしても一定程度の進展が見られるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き〈生-死〉概念と自己免疫概念を結び直す作業を行う。これに応じ、余裕があればフランスはカーンの現代出版資料記憶研究所(IMEC)および、カリフォルニア大学アーヴァイン校にそれぞれ所在しているデリダアーカイヴへの訪問調査も検討している。また、差延と切迫というテーマから、終末論/黙示録へのデリダの関心や、デリダの自伝的欲望、彼のカント読解なども併せて調査する予定である。
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Research Products
(4 results)