2013 Fiscal Year Annual Research Report
近代ドイツ文学における「フォルク」概念の変容--ロマン主義から保守革命へ
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13J00403
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
須藤 秀平 京都大学, 大学院人間・環境学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | ロマン主義 / フォルク / ナショナリズム / 19世の民衆像 / ハインリヒ・フォン・クライスト / ヨーゼフ・フォン・アイヒェンドルフ |
Research Abstract |
本研究は、近代ドイツにおける「ロマン主義」の解釈および定義を困難にしている「フォルクVolk」概念の成立・変容の過程を解き明かすことを目的とするものである。ドイツ・ナショナリズムの輪郭がいまだ明瞭ではなかった19世紀初頭には、20世紀に「フェルキッシュ=民族至上主義」思想の中でさかんに取り上げられた「民族」を意味するものとは異なる「フォルク」の概念が様々'な形で存在する。たとえばハインリヒ・フォン・クライスト(1777-1811)は、ナポレオン戦争に伴い反仏感情の高まる1806年以降のドイツで愛国主義的立場から政治色の強い作品を執筆し、「ドイツ国民」の形成に向けた民族主義的発言を残しているが、そのもっとも政治的傾向を強く持つ戯曲作品においてすら、彼が人々の総体としての「フォルク」に対し「民族」としての積極的な一体感ではなく、むしろ違和感を抱いていたことが確認される。これは「フォルク」の語が当時まだ「民族」という理想的な器としての機能を担うに十分ではなかったことを示す証左となる。 一方で、後期ロマン派の作家ヨーゼフ・フォン・アイヒェンドルフ(1788-1857)は、しばしば「フォルク」に対し積極的な意味づけをおこなったとされるが、彼の「フォルク」への期待もまた当時の社会状況に即して扱われるべきものである。アイヒェンドルフが作品中で取り組んでいる「フォルク」とは、社会の新たな担い手として当時注目されつつあった「民衆」である。識字率の高まる19世紀初頭に、アイヒェンドルフが「フォルク」に対し新たな「読者」として期待を抱いていたことが、彼の文学論および小説作品から確認される。これは同時代に文学が商品化・市場化したことに対する彼の批判の裏返しであるとともに、「フォルク=民衆」に歴史的・政治的主体性を見出そうとする動きの一つとして捉えることができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アイヒェンドルフ研究に際して「主観性Subjektivitāt」というキーワードを導入し、彼の歴史観を分析したことによって、〈歴史における主体〉としての「フォルク」という、19世紀初頭当時め「フォルク=民衆」観の考察のための重要な視座が得られたため。
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Strategy for Future Research Activity |
19世紀初頭の「民衆本」ブームの状況に照らし合わせ、同時代の他の作家と比較することによって、アイヒェンドルフの「フォルク」への期待がどの程度まで同時代の言説にのっとったものであり、どの程度まで彼の作家的独自性にもとづくものであるのかを検証する。それを足がかりにして、いわゆる三月前期に「フォルク」が文学作品の対象として、あるいは読者、すなわち文学作品の受容者としてどのような意味を持ったのかを明らかにする。そこから1820年代、またフランス七月革命の影響下にある1830年代の文学傾向を整理し、そこからこの時代の文学の20世紀における受容の問題を考察する。
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Research Products
(2 results)