2013 Fiscal Year Annual Research Report
ルネサンスにおける美術史叙述-ヴァザーリ著『芸術家列伝』に見る芸術家像形成
Project/Area Number |
13J00416
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
古川 萌 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | ヴァザーリ / ミケランジェロ / メディチ家 / 美術史 / イタリア |
Research Abstract |
報告者は今年度、『芸術家列伝』 (以下『列伝』)第二版にて収録された芸術家の肖像画に着目し、この肖像画が『列伝』のなかでどのような役割を担ったかについて検討した。その結果、『列伝』に収録された肖像画が、同時代の類似した作例と比較して、きわめて特異な存在であることが判明した。 まず、『列伝』の肖像画はその周囲に装飾的な枠が施されており、こういったニッチのような装飾枠は『列伝』に固有のものであることが確認された。また、『列伝』中、八名の芸術家は肖像画を与えられていないが、彼らにもこうした装飾枠は与えられており、これは装飾枠がたんなる肖像画の付随物に留まらないことをあらわしているといえるだろう。つぎに、『列伝』第二版が出版された1568年、その肖像画のみを収録する本が別途出版されていることもまた明らかとなった。興味深いことに、肖像画の与えられていない空白の装飾枠もまた、この本に収録されている。これにより、装飾枠が収録されなくてはならないほどの重要な位置を占めていることが、より強力に裏づけられた。 そこで報告者は以下のような仮説を提示した。すなわち、この建築的装飾枠は実際に肖像画が建築のようなものとして見られることを可能とする装置であり、したがって『列伝』に収録された肖像画付き伝記のひとつひとつは、各々芸術家の墓碑/記念碑として見られうる、という仮説である。それぞれの伝記が墓碑/記念碑として見られるならば、『列伝』全体はそうした碑を並べたひとつの大きな神殿として見ることができるだろう。報告者はこの仮説を2013年度の美学会全国大会で発表し、論文を執筆した。 さらに、調査を進めるうち、現在もフィレンツェのサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂に設置されている芸術家の墓碑群が、『列伝』において特別な意味を与えられていることも明らかとなった。芸術家の墓碑を建てて彼らを丁重に弔うという行為が、メディチ家の芸術バトロネージの一環として『列伝』内で強調されているものと見て、来年度の西洋中世学会大会での口頭発表を準備している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『芸術家列伝』における肖像画の意味についての考察を順調に進め、ひとつの結論を導き出すとともに、それを論文として発表しているため。
|
Strategy for Future Research Activity |
現在報告者は、上記の研究実施状況を踏まえて、ヴァザーリがデザインを担当しているミケランジェロの墓碑が『列伝』と墓碑の関係においてきわめて重要な参照点となると考え、この墓碑が建てられるに至った経緯や、ミケランジェロが亡くなった際の事実関係などを調査中である。
|
Research Products
(3 results)